空っぽを埋めるモノ５【RKRN】

記憶200 ページ11

｢冗談が過ぎますよ｣


自分の非力さを恨む。
力を込めて立花さんを押し返すが少し隙間が空いた程度で、大きく距離は変わらない。



｢冗談じゃないと言ったら？｣



一向に離れる気配がない立花さんと今の言葉に焦りが出てくる。


｢私のこと、ちんちくりんって言ったじゃないですか。そんな相手に冗談以外でこんなことしないです｣



川辺でのことを忘れてない私はその事を持ち出して何とか離れてもらおうと試みる。
その間も腕に込める力は一切緩めない。



｢……気にしたなら謝る。すまなかった｣

｢えっ｣



私なりにやめどころを与えたつもりだった。
想定では少しは騙されろ、とかそんな返しが来ると思っていたのに。


｢ちょっ、本当にどうしたんですか？ 立花さんらしくもない｣



いや、私こそ何を言っているんだ。



らしくもない(・・・・・・)なんて、彼を知った風に。
会話なんて数える程度しかしてなくて、弱みを一方的に知られていただけの仲。
それなのに無駄に口走ってしまった。
たった一ヶ月かそこらで分かった気になることの方が間違いだったのだ。


｢……私らしくない、か｣



ようやく離れた立花さんは乾いた笑いをこぼした。



｢す、すみません。知った風な口を｣

｢お前といると平静を保てなくなる｣



体に電流が流れる感覚がして何も考えられなくなる。
立花さんの言葉がBGMくらいにしか思えなくて、それでも聞かなければと、何とかこの場を凌がなくてはと頭をはたらかせる。



｢理由など分かっている。でも、言うつもりなど無かった。負け戦はしない主義でな……、振られる(・・・・)というのはどうにも性に合わん｣




まだ、何も言われていない。
まだ、何も言っていない。



それなのに彼は私がどう返事をするのか分かっているような言い方をした。



｢だが伊作が動いたのを知ったら、黙っていられなくなった｣



今日の昼頃のことだろう。
やはりバレていたのだなと思うと同時に、立花さんは伊作さんの想いに気付いていたことが分かった。



｢詰まるところ、伊作に便乗したという訳だ｣


確信をつく言葉は出てこないがさすがに察するだろう。



悪ふざけ……ではなさそうだ。
必死に考えた結果、かける言葉は一つしか出てこなかった。

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