記憶193 ページ4
真剣な顔をする山本さん。
そっと彼女の長く細い指が私の喉をなぞった。
ひんやりとしていてくすぐったい。
突然のことに彼女の意図が理解出来ず頭上に疑問符を並べる。
「声、戻って本当によかったわ」
優しく目を細めた彼女はそう言った。
「他ももう平気なの?」
喉から指を離し気まずそうに「触覚、とか」と上目遣いに言った。
「はい、もう全て元通りですよ。手、案外冷たいんですね」
嘘ではないという証明で付け足した言葉だったが、山本さんはハッとして気恥しそうに笑って手をもじもじと動かした。
「……ただ会っただけなのになんだか緊張しちゃって、冷や汗が止まらないの。もしかして手汗すごかった?」
好きな人と手を繋ぐ乙女のような反応が可愛らしくて頬が緩む。
実年齢不詳。
もし老人の姿が本当の姿であればかなり失礼かもしれないが……いや、それはそれでやはり可愛いな。
「大丈夫でしたよ」
表情を固くする。
「山本さんを探してたのには理由があって」
冷静な大人の判断を仰ぎたかった。
自分のことなのだから自分で決めるべきなのは分かっている。
伊作さんにもそう説いたのに言ってることとやってる事が違うではないかと自分でも思う。
山本さんも真剣な顔をした。
「確証はないんですけど」
心臓がドクドクといつもより大きく跳ねている。
呼吸がしずらい。
悲しいことはないのに涙が出そうになる。
「もし……」
ゆっくりと深く息を吸うが、それ以上に吐き出される息の方が多くて息をする度に段々苦しくなっていく。
(早く言わないと。山本さんの時間を無駄にしてる)
焦れば焦るほど呼吸の仕方が分からなくなる。
完全に悪循環に陥っていた。
――ふんわりと何かに包まれた。
何が起こったのか分からなかったけれど、うなじに何かが擦れてムズムズして、それが山本さんの髪の毛だと分かって抱きしめられたのだと気付いた。
「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて話してくれればいいから」
背中をさすってくれる手に、私は落ち着きを取り戻した。
555人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しおむすび(プロフ) - 夜分遅くにすみません。少し昔に拝見したこの作品、またRKRNに加熱したので少し覗いて見たら、これがもうどハマりしてしまって…登場キャラの細かな心理描写、細部の設定などに心打たれました。これ以上のRKRN夢は存在しません!これからも頑張ってください! (3月23日 0時) (レス) @page50 id: 85b974bf49 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - あみさん» あみ様、コメントありがとうございます!何年経っても色褪せない作品、それがnntm(RKRN)ですから…!もったいないお言葉、恐縮でございます。これからも良き夢ライフをお過ごしくださいませ! (2月3日 8時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
あみ(プロフ) - 16で忍たまに加熱、22歳で再加熱した者です。処女作とは思えないくらいストーリーや伏線がきっちりしてて、とても素晴らしい作品でした!😭ひとまずは今回の長編執筆お疲れ様でした! (1月22日 16時) (レス) id: 4a1c0578e6 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - riemoa0323さん» riemoa0323様、コメントありがとうございます!お返事が遅くなりすみませんでした。そう言っていただけてなによりです。こちらこそ、閲覧いただきありがとうございました! (11月26日 22時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - たけのこさん» たけのこ様、コメントありがとうございます!お返事が遅くなりすみませんでした。そう言っていただけてなによりです。こちらこそ、閲覧いただきありがとうございました! (11月26日 22時) (レス) id: 01b7521881 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年3月5日 14時