猫なで声に油断ならぬ。*M.A* (ページ13)

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みかんを飲み込む音だけが聴こえた。胸につかえそうなほど苦しいのは、まぁくんの顔が見たことないくらい悲しそうで、辛そうで、切ない顔だから。

「理由なんて、要らないでしょ？どこか寄るところがあって、私のとこはついでなんでしょ？」

「なんでそう思うの？」

「人間になって初めて会った日、言ったじゃない。寄るところがあるって。」

まぁくんの表情がハッとするのがわかった。でも必死で気づかせまいとしてるのもわかって、どうして隠そうとするんだろうって変な不安が過る。

何も言わずに体を起こすと、ため息のような息を吐いて立ち上がった。

「どこ行くの？」

ワンルームの部屋からは玄関が丸見え。真っ黒なコートは振り返ってくれないのがよく見えちゃう。

「寄るところ、思い出した。今日はありがとね。」

「逃げるの？」

「ラーメンも、美味しかったよ？」

「待って！」

こたつで暖まってたはずの手が冷たくて、思わず離した。

「行かないで・・」

ぎゅっと閉じ込めてた言葉が解き放たれて、妙な心地よさが一瞬過ったあと、慌てて口を塞いだけどもう手遅れ。

「・・ごめん。」

謝ることを言ったのかと聞かれたら違う気がするけど、咄嗟に出てきた言葉はそれだった。謝ったからって、どうなるわけでもない。もう一度伸ばした手が、宙を揺れるのが視界の隅にみえたけどそれはほんの一瞬で。

次にみえたのは、綺麗な瞳とそれを隠してく長くて綺麗な睫毛。

まぁくんの顔が近すぎて見えなくなったと思ったら、唇に触れた冷たい何か。
みかんの甘酸っぱい香りと、初めて香る大人の男の人のにおい。

「あ、ごめ・・」

まぁくんの困った顔が扉の向こうに消えてく。どうして謝ったりするの？キスしたこと？それとも・・なんて。

私も一緒か。