キャニング・ウルフ -S.Hirano-

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「平野さんは、独身ですよね？」



とりあえず1つずつ状況を確認すべく、そう質問してみる。さっき家に来た時、普段は家政夫さんと2人で暮らしていると言っていたし、失礼ながらこんなに常識から逸脱している人のお嫁さんを想像することが出来なかった。



「おう」



まずは、予想通りの返答だ。そして、問題はここからだ。



「お子さんもいらっしゃいませんよね？」


「おう」


「じゃあ、そのベビーベッドやキッチンの子ども用食器は何のためにあるんですか？」


「俺の子どものため」



ん…？おかしい、会話が1歩も前に進まない。まるでメビウスの輪の上を1周してしまったかのようだ。



「お子さんは、いないんですよね？」


「おう、今のところはな。でも、将来出来るじゃん？善は急げってヤツだよ、アホ」


「結婚もしてないのに、ですか？急ぎすぎな気がしますけど…」


「でも、いずれするし？」



まるで私のほうがおかしなことを言っているかのように肩をすくめる平野さんだが、生まれるかも分からない子どものことを心配する前に、お茶の淹れ方も分からない自分の心配をしたほうが良いような気がする。



「彼女さんとか、いるんですか？」


「おう」


「へぇ〜…って、それならその人にご飯作ってもらえば良かったじゃないですか！」


「無理に決まってんだろ、会ったことねーもん！」



あっけらかんとしてそう答える平野さんが思っている「彼女」と私の知っている「彼女」は、きっと全然別の言葉だと悟った。

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