とある森の妄想族(短編集) (ページ44)

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恋をしていたから(緑) ページ44

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学生実習で部署にきたのが私と神山くんとの出会い。

大学生だけれど、仕事はしっかり出来るし、可愛いし一気に部署全体を明るくしてくれた。
中でもそんなに歳が離れていない私と、同期で私の好きな人重岡くんと3人で話したり呑みに行くことが
多かった。

神山くんは私が重岡くんに好意を持っていることをいつの間にか知っていて...。

「最近どうですか？」

なんて二人になると決まって声をかけてくれて、聞き上手で女心も分かってくれる神山くんにだけは
包む隠さず話してしまっていた。

そして今年のバレンタイン。
重岡くんにあげるためにチョコ作りの練習をしようということになり、家に神山くんを呼んだのがきっかけで
私たちは距離を縮めた。

『神山くん上手だね。よく作るの？』

「お姉ちゃんと妹2人いるんで良くこの時期は手伝ってたんですよ」

『へえ、だからか...』

「ん？」

『あ、ううん。神山くん凄い女心分かってるから笑』

「そうですか？」

『うん。なんかこうやって2人でキッチン立ってると弟みたい！』

私一人っ子だからさ、こういうの憧れていたんだ。なんて続けるとさっきまで隣から聞こえていた
泡立て器の音が止まった。

『ん？どうしたの？』

「弟...ですか？」

隣に立つ少し上にある顔を見るとちょっと歪んでいた。

『あ...ごめん嫌だよね。』

私みたいなのがお姉ちゃんなんて頼りないにもほどがあるよね。

「んー、弟なんやったらため口でも良いですよね？」

『えっ？』

「2人のときだけ！会社ではちゃんと敬語使うし...」

だめ？なんて可愛い顔で聞かれたら駄目って言えないよ...。

『いいよ...会社ではちゃんと敬語ね？』

「ふふ、やった」

先ほどの歪んだ顔から花が咲いたように可愛らしい笑顔でまた泡立て器を鳴らす。

それからたまに私の家でご飯を食べたり、呑んだり...
今思うとまるで恋人のようだった。

だけど....

(ごめん、彼女が居るから貰われへんねん。あいつすぐ拗ねるから)

貰われなかったチョコレート。

『彼女いるなんて知らなかった...』

(あー言ってなかったっけ？)

言ってくれなかったよ...
重岡くんのことはちょっとしたことだって忘れないもの。

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