沈んだのは ページ7
ぼやける視界はいつの間にか晴れて
自分がどこにいるのかがハッキリ分かってくる
身体も小さくなっていてあの白い痣も所々見えた
ああ、海の上だ
懐かしいあの船と煙草の臭い
少し顔を上げれば黒い外套を着た恩人がいた
「コ…ラさん…！」
そう呼べばあの歪なピエロのメイクをした彼は振り返った、あの日と変わらない優しい微笑みを少年に向ける
思わず抱きつけば涙が止まらなかった
凍えるようなノースの海風は流れる雫を冷やしていく
「ロー…大きくなったなぁ…」
嬉しそうに泣きそうな表情を浮かべた恩人は
自分を抱きしめてくれた
抱き返すと懐かしい匂いと安心感
愛と優しさがローを満たしていく
「コラさん…俺、病気治ったんだ…あれから仲間も出来た…身長もすげぇ高くなったんだ」
恩人に自分の今を伝える。
あの日世界を呪った珀鉛病の少年は
医者、そして海賊船の船長としてあの大海原を渡る青年になった
守るものも出来た
慕ってくれる仲間達
「全部コラさんのお陰だ…あの日全てを諦めていた俺に希望を与えてくれた…あんたのお陰で俺は生きているんだ…」
感謝してもしきれない、なぁコラさんと顔をあげると
コラさんは笑っていた
その時気付いた、そして胸元に縋るように頭を預けながら言葉を零す
"あぁ、これは違うな"
そう自覚した時には恩人の姿にノイズの様なものが走る
そのノイズに時々映るのはあの日血塗れになって尚も大丈夫だ、ローと
あの下手くそな笑顔の彼が映し出される
もしもなんて無いのだ
未来を変える力なんてあの日の少年には無かった
亡 くなった恩人はもう戻ってこない
忘れたい日々かと言われれば違う
絶対に忘れたくない
忘れてはいけない思い出
少年の治療の為に危険を冒した恩人
世界から嫌われた少年を最後まで愛した彼
あの日彼は実の兄に殺 された
優しい彼は撃てなかったのだ
ああ、そうだ忘れてはいけない
恩人の仇を打つのだ
コラさんが引けなかった引き金を
その為に俺は…
自然と体は動いていて偽物のコラさんの首に手をかけて共に海に飛び込んでいた
凍えるノースの海の底に沈んでいく
何故かそれは哀しい程幸せだった
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作者名：しづ | 作成日時：2019年12月9日 0時
