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もう幼馴染じゃないんだ。
失うものは何もない。





左手に呪いをかけてドアノブを掴んだ。
息を殺して少しずつ体重をかけると、重たいドアは
ひっかき音ひとつ立てないで俺を中に入れてくれた。





俺の知らないひかるが、一心不乱に絵を描いている。





ちょっとした庭ぐらい大きな紙に何色もの絵の具を
ぶちまけた絵は、写真で見るよりも力強く叙情的で、

ひたむきに絵を描く姿はどんな言葉より雄弁だった。





なんでひかるがこの絵に固執するのか。
どんな気持ちで描いてきたのか。

そして、"何を使って" 描いてきたのか。





ひかるは見たことない純白のワンピースを着ていた。

スカートの裾や素足を濃いピンクの絵の具で汚して
白い紙の上で踊っていたのだ。
ひかるがオルゴールの上のバレリーナ人形みたいに
くるくると回るたび、絵の具が嬉しそうに飛び散る。

音楽はない。無音だった。

ただ、ひかるの内に流れている音楽が見えるような
開放的な動きに、俺は気配さえ弾き飛ばされていく。



ひかるは鳥のように自由だ。ここでなら飛べたんだ。



数秒だったと思う。でも永遠のようにも感じられた
時間は、ひかるが誰かに早送りされたように回転し
そして、ぴたり、と目が合ったとき、現実に戻った。

ガラスの窓が外の寒さに軋む音だけが聞こえてくる。





「っ、わぁあああッッ…!!」





ひかるが膝を抱えてうずくまり、紙にベッチャリと
ピンクの絵の具がついた。ひかるは苦しそうに肩で
息をしている。



「勝手に入ってごめんな…」
「っ、気持ち悪かったでしょ…っ?」



ひかるは呆れたような笑みを混じえて言った。

俺は気持ち悪いだなんて1グラムも思っていなくて
ただひかるの聖域に土足で踏み込んでしまった事を
許してもらいたくて必死で頭を動かしていた。

ワンピースを着ていようが、スーツを着ていようが
俺の気持ちはちょっとも変わらない。



「気持ち悪いついでに、もうひとついい…?」
「……うん……何?」



ひかるは床に落としていた視線をくいっとこちらに
向けた。分厚いビロードの幕のように不透明で先が
見えない時間が過ぎる。

今さら何を言われようと取るに足らないことだ、と
ひかるの声だけ聞いた。







「おれ、ずっとやぶが好きだったんだ」







浮き雲みたいに掴みどころのない期待が胸を占めた。

ぬか喜びだった時の為の鎧を心に纏う余裕もなくて
”それってどういう好き?” と、情けなく声が震えた。

ひかるは嘘みたいに可愛らしい。







「チューしたいなぁって思うほうの "好き"」







☆→←☆



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白米(プロフ) - こんにちは。こちらは薮くんの光への愛が前編ずっと綴られていて、それだけで読んでいて胸いっぱいで。両片想いっていいですよねー。はぁ。途中ハラハラしながらも、最後の幸せそうな二人に私も幸せにしてもらいました。ご馳走様でした。 (2019年11月27日 11時) (レス) id: 087ee442e3 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 大好きな「失恋作家」の二人に再会できて幸せです。ありがとうございます。再読させていただき、初めての夜に辿り着いた二人を心から祝福したくなりました。一人で見る夢以上に二人の未来はきらきら星のように輝いています。そして、スパダリやぶくんに栄光あれ! (2019年4月11日 11時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ooota12(プロフ) - はじめまして。流星の詩を歌う光くんに涙してしまいました。しょこるさんの世界観に引き込まれてしまいました。スピンオフの甘々はほっこりするもので大変楽しく読ませてもらいました。 (2019年4月11日 1時) (レス) id: 7038ad089f (このIDを非表示/違反報告)
しょこる(プロフ) - ♪ゆずりんご♪さん» コメントありがとうございます^^オークションのシーンにはやぶのひかるへの愛をたっぷり込めて書いたので心に響いて嬉しいです*もっと面白いお話、胸キュンするやぶひかが書けるように次もがんばりますっ♪ (2019年1月12日 13時) (レス) id: 7e239da259 (このIDを非表示/違反報告)
♪ゆずりんご♪(プロフ) - 初コメ失礼します。最初から最後まで、光くんと薮くんの恋物語にハラハラしながら読みました。純粋無垢な光くん、それを助けようとした薮くんの「125万円!」の叫びに胸が痛くなりました。すごく面白かったです! (2019年1月9日 23時) (レス) id: 10db15d6da (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しょこる | 作成日時:2018年6月8日 21時

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