到達できぬ高みを見たとき人は涙を流す 三 ページ11
九兵衛は一旦刀を横に流し、下から斬り上げようとする。
しかしAは後ろに避けて、すぐさま距離を詰め直して斬りかかった。
静かな室内に足音と何度も刀のぶつかる衝突音が響く。
九兵衛は決して弱くもなく隙のない剣戟を見せるが、Aは軽くいなしていた。
ガキンと音がして九兵衛の刀が斬り飛ばされ、彼の首にAの刀の刃先があてがわれた。
『ッ……』
『し……勝負あり! 勝者、AA様!』
東城は驚き汗を浮かべ、慌てて審判をとった。
九兵衛が刀を向けられたまま、Aを見つめる。
『……惨敗ですね』
瞳に影が入り九兵衛は女に負ける自分を情けなく思った。
Aは否定も肯定もせず、刀を下ろして納刀する。
『貴方の剣は、真っ直ぐで鋭いけれどどこか優しい……誰かのための剣ですね』
『え……』
『打ち合っていれば分かります。その力の行先が何に向けられているものなのか。誰かのための剣というものは、ただ力だけを求めて鍛錬し続ける剣よりも強くなると、私は思っています』
だから、とAは九兵衛に手を差し伸べ握手を求める。
『あなたの剣は、もっと強くなる』
『!』
九兵衛は目を見開き拳を握った。
胸中には、悔しさと妬ましさがあった。
女でありながら強さを持つ相手を、羨ましく思っていた。
けれど彼女の言葉で、九兵衛は胸に温かい光が差した気がした。
彼はAの手を握り握手を交わす。
『貴方より強い侍に、なってみせる』
『!』
負の感情に押し塞がれて落ち込むことはなく、九兵衛は真っ直ぐにAを見据えた。
彼女はそれに驚き、フッと笑う。
『楽しみにしていますよ、九兵衛様』
Aは嬉しそうにしてにっこり微笑んだ。
――
僕は剣術で彼女に負けた。
あの人は、とてつもなく強かった。
並の侍が修行して出せるような力じゃない
人間が辿り着ける領域なのかと疑問にすら思うほどのもの
あの試合のあと、負けたままでは示しがつかないと父上が彼女と四天王たちの剣闘を要請した
四天王だけでなく、父上やおじい様も彼女と剣を交えることになった
しかし
AA は僕を押し退け、四天王を圧倒し、父上を伏し、おじい様を完敗させた。
おじい様との戦いには、やや苦戦していたようだけど
彼女がおじい様にすら勝ったことに皆が驚いていた
本当は剣闘が始まる前に、僕もおじい様も気づいていただろう
これは到底勝てる相手ではないと
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刹那*桜(プロフ) - あいさん» ありがとうございます!! (2022年12月27日 20時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 初コメ失礼します!! めっちゃ面白いです!! これからも頑張ってください! (2022年12月26日 19時) (レス) id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
刹那*桜(プロフ) - あたりんさん» ありがとうございます!! (2022年11月20日 0時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
あたりん(プロフ) - 更新楽しみにしてます!! (2022年11月14日 16時) (レス) id: c0f0373936 (このIDを非表示/違反報告)
刹那*桜(プロフ) - 花香さん» コメントありがとうございます!9個もあって長いですなか一気に読んでいただきありがとうございます!!わりと読みづらい所もあるかと思いますが好みと言ってもらえてとても嬉しいです!!(;ω;) (2022年11月7日 23時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年11月7日 0時