屋台で買って食べ歩きするなら人混みの中は気をつけろ 三 ページ15
刃物を合わせながら、Aは微笑む。
「ふふっ、私に勝てるかな?」
「ほう……ついに自分の力を自覚したのか」
今までのAなら決して自分の力を誇示してこなかったため高杉は少し驚いていた。
力を自慢し自惚れて相手を侮っている訳ではないことは、刃物を握る彼女の姿から窺える。
「それもこれも、自分のこと知ったからだけどね」
「ますます知りたくなるな、そりゃァ」
「ふふっ、教えてあげなーい」
Aはイタズラっぽく、ベッと舌を出して言う。
「じゃあ、私は行きたい所があるから」
「っ!」
Aは一度高杉の刀を横へ流し、小刀の柄で彼の手を叩き刀を落とさせる。
驚いている彼を尻目に、そのまま雑踏の中を紛れて消えていった。
「ククク……必ずお前のことを突き止めてやるよ」
高杉は少し痺れの残る手を抑え、Aの去っていった方を眺めて笑った。
「あ! 見つけた! 源外さん!」
屋台の間を歩き、源外を見つけたAは彼に声をかけた。
声をかけられて源外はビクッと肩を震わせた。
「!! あ、ああ……Aか。なんだ、顔合わせるのはニ週間ぶりくらいか」
「ごめんねっ、仕事忙しくて抜ける暇があんまりなかったんだー」
「……そういや、お前は幕府で働いてるんだったな」
源外は少し険のある表情になって、Aは不思議そうにする。
「確か事務の仕事か……なら、将軍様のそばにいることはねェか」
「え、あ……」
彼の言葉にAは言葉を詰まらせた。
彼女は源外に、幕府で働いているとは言っているが「事務職員」だと嘘を伝えていた。
「うん」
少し間をおいて、Aは少し申し訳なさそうな顔をしつつ肯定した。
「そうか、なら良かった」
「? どういうこと?」
「いんや……将軍様の近くで仕事してたら祭りも楽しめんだろうと思ってな。たくさん遊んでこいよ」
「……うんっ」
二人は、お互いに本当の真実を隠した。
互いの思惑も知らぬまま、互いに秘匿と嘘の罪悪感に苛まれて。
Aは背を向けて歩いて行く。
源外はその背を、哀に染まった目で眺めていた。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年8月29日 18時