泥だらけの手でも離さない 五 ページ48
「手を汚させたくないと思ってもらえるのは凄く嬉しいよ。けどね」
「私だって、護らなきゃいけないものを護りきることができないのは……もう御免なんだ」
攘夷戦争の中、Aは多くの攘夷志士に護られていた。
『お前はここにいろ』
『大丈夫だ。お前は必ず俺たちが護る』
そう言って彼らは戦場に赴き
その多くが帰らぬ人となった
護ってくれる皆が次第に消えていく
護りたい者達が消えていく
彼女はただそれを眺めることしかできない
「もう、あんな思いはしたくない……」
人を殺さないというのは善であるようで、戦いにおいては理想論で甘い考えである
戦場では人を殺さないという事は、人を「殺せない」という弱さになる
(護るために、人を斬ることが必要だというのなら……)
Aはグッと刀を握りしめ、顔を上げて前を向いた。
「大丈夫。もう、覚悟はできてるから」
「Aさん……」
沖田はAの表情を見て驚いていた
ここが生死をかけた戦場であることを理解し、己の刀で他者の血を流す覚悟を決めた、侍の目
「沖田君が私を護りたいと思ってくれるのと同じで、私も沖田君を護りたい」
「ねえ、沖田君」
Aは沖田の隣に立ち刀を構えながらも、少し不安げに眉を下げる
「今の私は沖田君にとって、背中を預けられる相手かな」
「……」
沖田はフッと笑い、同じく刀を構えてAに背中を軽く当てた
「なに言ってんですかィ。背中なんかじゃ足りねーや……アンタは、俺の全てを預けられる人でさァ」
Aは目を見開くが、すぐに笑みを浮かべた
「……それはちょっと、信頼しすぎだよ。ガラ空きの背中向けて、私に襲われても文句言わないでね」
「上等だァ。そんときゃ……襲い返してやるよ」
二人は視線を合わせて笑う。
そうこうしている内に前方からライフルが構えられ、「撃てェェ!!」と銃弾の猛攻が襲いくる。
沖田とAはキッと強く前を見据え、刀で銃弾の嵐を弾き飛ばしていった
激しい金属音が鳴り響くが、二人には擦り傷一つ付かない
沖田が防ぎきれない攻撃はAが
Aが防ぎきれない攻撃は沖田が
荒れた戦場で互いの状況を把握し、背を合わせて互いに護り合っている
多勢に二人だが、沖田たちを圧倒できない戦況に蒼達は驚いていた
「ムダだっつってんのが分かんねーのか」
『 俺たちゃ 死んでもココから動かねーぜィ
私たちは 死んでもココから動かないよ 』
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年5月27日 2時