汚れても護らなければいけないものがある 九 ページ40
「どんな生き方したらこれだけ人に恨まれるアルか。命がいくつあっても足りないネ」
「人を殺して生きてるからさ。今さらどっかのガキの恨みが一つ二つ増えようが変わりゃしねェ。人殺しには違ェねーからな」
沖田の言葉を聞いてAは目を逸らして視線を下げた
その反応に沖田は一度チラリと彼女へ視線を向け、また前へと向き直る
「けっこうな殺人鬼アルな。恨みはいくつでも買うが女の子ひとりのメソメソにも耐えられないアルか」
「……ガキにゃ分かるめーよ。てめェの手ェ汚しても、護らなきゃいけねーモンってのが世の中にはあんだ」
「汚れちまった目ん玉だからこそ見える。けがしちゃならねーモンってのがあんだよ」
「まァ、それがガキのメソメソなんて言うつもりはねーがな」
霧江を見て
そして二年前のあの事件の時に見た、仮面の下で涙を流すAの顔と
今朝に霧江を目にした時に動揺するAの表情を思い返す
(万事屋で霧江を前にしたAさんのあの顔は……罪悪感に苛まれていた。おそらく、六角宗春を救えなかった罪の意識から、自分を追い込んでるんだろう)
宗春に斬りかかられたあの時、神山が刃を突き刺したあの場で
彼女は何一つ動くことができなかった
もしとっさに動くことができたら、もしかしたら宗春を救えたかもしれない
いや
(宗春が刀を振りかざしたあの時点で……)
あの近距離で
倒れたAのあの体勢から
胸の致命傷から
横にいる神山に刃が向かないようにするには――
(あの時のAさんに許された選択肢は『殺し』のみだ)
けれどあの時の彼女には、人を殺す覚悟がなかった
Aは今の現実では存在しない、助けられたかもしれないという過去の分岐の可能性に縛られていた
たとえそれが、起こり得ない
ただの「もしも」だったとしても
「考え込みすぎなんでィ」
過去に縛られ続ける彼女にポツリと小さく呟いた
「それと、お前とAに一つだけ聞いておきてーことがある」
沖田の顔には冷や汗が大量に流れていて引きつった笑みを浮かべる
「ここで、ウンコしてもいいかな」
『……』
神楽もAも沖田の発言に言葉がなくなり白目を向いた。
「マジヤバイ。マジコレキテル」
「沖田くんんん!?えええ!?今!?」
「おいィィィ!!マジでかァァァ!!ちょっと待て!汚しちゃならないモンがあるって言った矢先にコレ!?」
ジタバタする沖田に神楽たちは焦り始めた。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年5月27日 2時