強くて優しくて脆い人 五 終 ページ19
山崎の言葉を聞いてAは黙っていたが、口元に笑みを浮かべた。
「……言ったでしょう?『貴方を見る』って。私は思いを告げてきた方たちのことは、一人一人ちゃんと考えてますよ」
「え……」
山崎の言う通り今まで、多くの隊士達が玉砕覚悟でAに告白をしてきている。
しかし彼女は即断るようなことはしていなかった。
どれだけ沢山の人に告白されてもAはその一人一人に目を向けている。
「私は誰かからの思いを受けたら、それを大事にしたい。向き合いたい」
「どんなにたくさん積み上がっても、その一人一人が私を見ている。私はそれから、目を背けたくないんだ」
「まあ、沢山の人を待たせてるって言われると何も返せないんですけどね」
Aは苦笑いして頰を掻いた。
その考えでいくと彼女はおそらく、隊士でなく街の市民であろうとも告白されれば真剣に考えてくれるだろう。
(それはつまり、ジミーの俺でも……可能性はあるって、こと……)
告白すればちゃんと見て考えてもらえる。
その事実に山崎は安心して、そして悩みもした。
(俺が告白したら……きっと少しぎこちなくなる)
一度思いを告げれば、今の関係性が少しは変化する。
今の仲間としての彼女との距離は山崎にとってちょうど良い、程よい距離である。
今より少しでも近づければ幸いだが、今の心地いい関係性が崩れてしまうのを彼は恐れていた。
「山崎さん……?」
「!あっ……す、すみません」
黙り込んでしまった山崎をAが怪訝そうに見て、彼は慌てて我に帰る。
「……山崎さんも、あまり思い詰めないでくださいね。何かあれば私を頼ってください」
「その分……私が辛い時は、存分に頼らせてもらいますけどねっ」
「Aさん……」
Aはニッと明るく笑って山崎の手を握る。
「山崎さんは強い人ですよ」
「え?でも俺は剣の腕もそこまでですし……隊長や副長みたいにはいきませんよ」
「んー……単純に戦う強さじゃないですよ。こうやって私の肩を支えて気持ちを共有してくれる、心の強さです」
彼を見上げて
「山崎さんは沖田さん達に比べたら脆いかもしれないけど、強くて優しい人です」
「私と一緒ですねっ」
「ッ!」
Aがにっこりと微笑んできて、山崎の心臓が跳ね上がり顔が赤くなる。
「ほんと……ズルい……」
山崎は赤い顔を背け手で隠して
(このまま幸せな時間が続けば良いのに)
ただ今この幸せを存分に噛み締めた
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年5月27日 2時