兎は餌場を荒らされるのを嫌う 一 ページ3
「はあ、はあ……何とか逃げ切れたか」
女は夜兎の男を連れてビルから逃げ、江戸の人気のない場所まで来ていた。
「まったく……何なんだアイツら。あの女は星人だって聞いてたから警戒して春雨を抱き込んで、荼吉尼と夜兎まで連れてきたのに……バケモノ集団じゃないか」
女は腹立たしげに眉を寄せて言葉を吐き出す。
静かだった路地に、どこかから鼻歌が聞こえてくる。
「ふん、ふん〜」
上機嫌な鼻歌は、徐々に女の方へと近づいてきて
彼女に上から影が差した
「いやァ〜、春雨の他の隊で雑魚どもが何かしてると思ったら……まさか人間に絆されてあの人に手を出すとは。人の餌場を荒らすなんて、いい度胸してるねオネーサン」
女が見上げれば、横の建物の屋根の上に番傘を差す二人の人物がいた
編み込まれた朱色の長い髪を風に揺らした少年と、渋い顔に呆れた様子を見せる男
「お、お前は……春雨第七師団団長 神威ッ！！な、何で……」
神威はニコニコと笑って、阿伏兎ともに女の目の前に降り立った
「やあ、こんにちはオネーサン。俺が何で来たかって？いやあ、白々しいなァ……それも全部、君の自業自得じゃないか」
「雑魚のくせに俺の大事な女に手だして横取りしようだなんて……」
神威はゆっくりと女の方へ近づく
彼女は顔を青くして後ろに下がり、間に夜兎の男が割って入る
「ぬらァァァ！！」
夜兎の男が拳を振るってきて
「うるさいなァ……いま用があるのは君じゃないんだよ」
神威はニコニコとしていたがその声は低く凍りついていて
男の拳を避けて、彼の巨体に手を突き刺し貫通させた
「がっ……」
勢いよく手を引き抜き、血が噴き出す
巨体が地面に倒れて大きな音を立て、神威は土煙が舞うなか手についた血を舐め取った
「ッ……わ、私は春雨と取引したんだぞ！こんなことしてタダで済むと思ってるのか！」
「君はその取引相手を見捨てたじゃないか。逃亡仲間に選んだ兎を除けば、皆が君の敵だと思うけどね」
「ッ……あ、貴方たち！コイツらを始末しなさい！！」
彼女が大きく叫ぶと、路地の影から何人もの夜兎が現れた
「あらら、絶滅危惧種なのによくもまあこんなに人数集められたもんだね」
「だから俺は共食いは嫌いなんだがなァ」
ニコニコする神威の横で阿伏兎は溜め息をついて頭を掻いた
「Aの星人の話をしたら食いついてきたよ、さすが戦闘民族だね」
女の言葉を聞いて神威はピクッと眉を動かした
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作者名：刹那＊桜 | 作成日時：2023年5月5日 12時
