家族だって知らないものの一つや二つはある 一 ページ36
「刑務所から脱獄してきたみたいだね。まったくなに考えてるんだか」
女が呆れた顔をして言い、戦は彼女を睨んだ。
「そりゃこっちのセリフだ。さっさとAから離れろ……A、こっちに来い」
戦は脱獄してきて目の前で警備員を斬り倒している状況である。
相手が兄だからと言って、そう簡単にそちらにはつけずAは黙ったまま動かずにいた。
女は困ったようにフッと笑う。
「Aちゃん、人を疑うってことを知らなきゃダメだよ。本当に戦君は信じていい相手なのか、護るべき相手なのか」
彼女の言葉に
『そばにいる奴らが皆、味方とは限らん』
勝男の言ったことが脳内で蘇る
兄だからと信じきっていたが、兄だから善人であるとは言い切れない。
Aの知らない部分で、彼は人殺しという巨悪を持っているかもしれない。
「ッ……」
女に見つめられて、Aは目をそらした。
「この脱獄犯が!!」
「チッ……」
警備員が戦に斬りかかり、彼は躊躇わず警備員を斬りつける。
血が舞う目の前の景色は、兄が人を傷つけているという、否定しようもない現実である。
「Aちゃん。あの人とは別れて、私と一緒に行こう」
女がAの手を握って、戦は目を見開きギリッと歯を食いしばった。
「Aに触ってんじゃねェ女狐がァァ!!」
戦はブォンと勢いよく女に刀を投擲した。
「ッ!!」
Aは慌てて机の食事用ナイフを取り刀を弾き流した。
「お、お兄ちゃん落ち着い……て……」
兄を宥めようとしたAだったが、彼の表情を見て目を見開き言葉が止まってしまう。
戦は、人殺しの目をしていた。
憎しみを湧き上がらせて、黄色の虹彩に
「ほら……言ったでしょ?簡単に人を殺せるような人だって」
女が口角を上げてAに言葉をかけるたび、彼女の目は嬉々の色を帯びる。
しかしその目は、醜悪な欲を孕んでいた
Aでは気付けない、戦しか気づかない
戦の大嫌いな
Aは今まで、彼のそんな顔を見たことがなかった
それも当然、戦は隠し続けてきた
自分の記憶にこびりついて離れない憎悪を
それを持ってすれば簡単に人を殺してしまえる殺意を
妹の前で見せることはなく、妹の見えない裏で嫌いな人間を始末し続けてきた
「……」
Aは戦を擁護も非難もできず黙ってしまった
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刹那*桜(プロフ) - アイナさん» コメントありがとうございます!ここまで読んでいただきオリキャラも慕っていただきありがとうございます! (5月5日 12時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
アイナ(プロフ) - いつもありがとうございます。夢主ちゃんも勿論大好きなのですが、ぶっきらぼうでちょっと怖いけど本当は優しいお兄ちゃんも大好きなので、彼の話を心待ちにしておりました。 暑くなってきましたので体調に気をつけてお過ごしください。 (2023年5月3日 12時) (レス) @page39 id: e6fe50ece6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年4月21日 21時