黒波 四 ページ37
「……俺たちを狙うなら、Aを使おうなど回りくどいことはせずに直接襲えば良い。星人のAに手を出すより、ただの人間の俺たちに手を下す方が格段に楽に手っ取り早く済むはずだ」
礫星はフッと笑った。
「それはそうだ。俺たちはそもそも、お前たちを狙っているわけではないからな」
「……まさか、Aを狙っているというのか」
桂が眉を寄せて問えば礫星は微笑んで肯定した。
「どういう、ことだ。Aを狙っているのだとするなら、なおさら回りくど過ぎるぞ。なぜ自分たちで殺さない」
「殺せないからだ」
礫星は悲しげに少し眉を下げる。
「俺たち十人ですら、アレは殺せないんだ」
「なっ……」
星人ですら殺せないと聞いて桂は目を見開いた。
星人族は宇宙最強の種族である。
戦闘経験や訓練の有無によって同族同士では戦力の格差が激しいが
いくら強者であっても十対一では互角の状況に持っていくことすら難しい。
十人の星人にたった一人の星人を殺せないなど、本来ならあり得ないことなのである。
「だからお前たちを
桂が刀を握る手にグッと力を込めた。
「……なるほど。俺たちは貴様らに抗っているようで、貴様らの肩部を担いでいた……Aを殺す手伝いをされていたわけか」
「今頃気づいてももう遅い。すでにAは何人もと衝突を繰り返しアルタナを大幅に削がれている。殺すなら今だ」
「殺す?冗談を言うな。俺にはこいつを殺せないし、殺すつもりもない」
桂は構えていた刀を地面に刺して手から離す。
Aはそれを見て目を見開いた。
「A、目を覚ませ!このままではお前が一番望まぬ結末を迎えることになるぞ!」
「……」
Aは無言で赤い目の殺意の海に、大切な幼馴染を沈める。
礫星が大きくため息をついた。
「無駄だ……殺せないなら、貴様が死ぬだけだ」
礫星の言葉が終わると同時に、桂の背後から気配がした。
「!!」
今まで前にいたはずのAが背後から刀を振り上げていた。
「チッ!!」
桂は舌打ちをして地面に刺した刀を抜き、彼女の斬撃を受け止める。
ぶつかった衝撃音が鳴るが、先ほどより強い圧力のせいで桂の足元の地面がバギャッと割裂した。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年2月26日 20時