紫煙 一 【高杉】 ページ25
『何だこれ』
攘夷戦争が激化する直前ほどの頃
月夜の晩に、高杉はAから赤い勾玉を受け取った。
『お守り』
Aはニッと笑った。
『赤い勾玉は生命力を強くするんだって。それを買った神社に言い伝えがあってね。贈られた勾玉をずっと持ち続けてたら、その人と恋が実るんだってさ』
Aが少し申し訳なさそうに頭をかいて。
『その伝承を聞くとちょっと、私から貰ってもあんま嬉しくないと思うけども……』
彼女の話を聞き流しながら、高杉は月に赤い勾玉をかざす。
宝玉が光を受けて綺麗に輝いていた。
『あっ、そういえば高杉君って好きな人いるの?高杉君、ぜんぜんその手の恋愛話してくれないんだもん。ねー聞いてる?ねーねー好きな人いるのー?』
高杉は先ほどから全くAのことを見ていない。
拗ねたのか彼女に飛びついてダル絡みし始めた。
『……』
高杉は無言だった。
さすがにウザかったかな、とAは冷静になり冷や汗をかいて彼の顔をうかがう。
『ご、ごめ。ふざけすぎた。その勾玉いらなかったら回収するから……』
Aが高杉から勾玉を取ろうとするが、彼が手を引いてヒョイと避けられてしまった。
『高杉君?』
高杉はAの腕を掴んだ。
『
『え……』
ずっと持っていれば恋が実ると言われている勾玉を、一生持つなどということはつまりーー
『え……あ、の』
Aが顔を赤くすると、高杉はフッと笑ってデコピンをした。
『アイタッ!!』
『冗談だ。てめーと恋なんざ結ばれたら面倒臭そうだからな』
『なっ、なんかその言い方失礼ー!』
怒っているAを眺めて微笑み、高杉は心中に熱を感じていた。
ーー
静かな夜
静かすぎる夜
「ずいぶんと、月が赤ェな」
高杉は額から血を流しながら、ひとけのない倉庫で荷箱に背中を預けてつぶやいた。
暗闇の深い空には、赤い月が鎮座している。
赤い勾玉を月にかざして、フッと笑った。
「赤い月夜は、血の気が多いらしい」
高杉が前へと目線を移すと、そこには少し長い藍色の髪に赤い目の男が立っていた
右目には眼帯をつけていて、その手には血まみれの刀が握られている
「追い詰められているというのに余裕そうだな」
彼は赤い血のような目を、凍りついた瞳を高杉へと向けた。
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2023年2月26日 20時