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引っ越し業者により順調に荷物は運び出され、
何もなくなりがらんとした室内を見回して
感慨深くなった。
「A〜悪い、急に呼び出された。
荷物は運び込まれてるから、先に行ってて。
これ新しい家の鍵」
兄から鍵を受け取る。
「じゃあ、頼んだぞ」
そう言うと、兄は足早に
仕事へと向かっていった。
仕方がないし
一人で新しい家へと向うことに。
これから住むことになるマンションは
以前より学校に近くなる上
コンビニやスーパー、繁華街なども近く
生活の便がいい。
高級感漂うエントランスを入り
エレベーターへと向かう。
降りてくるエレベーターを静かに待ち
少しすると扉が開いた。
乗り込もうとすれば
先に乗っていた人が降りてきた。
その人の顔を見た瞬間、思わず動きを止めた。
向こうも私に気付き驚いたようにわずかに
本当に気づかないぐらいわずかに
目を見開いた。
「ヒ、ヒスン様？」
エレベーターから降りてきたのはヒスンだった。
普段の制服とは違う、私服のヒスン。
制服よりもより魅力的に大人っぽく
ヒスンを見せていた。
かなり貴重な姿だろう。
学校の女の子達が見たら
発狂して騒ぐレベルだ。
唖然としていると、
ヒスンの方が口を開いた。
「ここで何してる？」
「あ、あの、今日引っ越してきたの」
「このマンションに？」
「うん、そう。もしかして
ヒスン様もここに？」
「ああ、ここに住んでる」
「そうなんだ」
それ以上話が続かず、沈黙が落ちる。
ヒスンの方は何かを考えるように
私を見つめていて
何となく気まずく感じていると
後ろから「ヒスン様」と呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返るとスーツを着た男性が
ヒスンを待っている。
「じゃあな」
去っていくヒスンの背中を見送りながら、
息を吐く。
「驚いた。まさか彼がいるなんて」
しかもこれから同じマンションで
暮らすことになるなんて。
今後顔を合わせることも
増えるかもしれない。
「これは黙ってた方が良さそう」
イ・ヒスンの住んでいるマンションなんて知らせたら
毎朝彼を見るためにマンションの入り口で
出待ちする女の子達が出てきそうだ。
それに同じマンションだなんて知られたら
いらぬ嫉妬を買うかもしれない。
これは絶対に知られるとまずい。
不用意に口にしないようにしようと
心に誓った。
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作者名：yori | 作成日時：2022年4月12日 0時
