6 緑谷出久と約束の公園 ページ6
"いつか一緒にヒーローになろう"って約束したのに、何時間経ってもあの子は約束の場所に来なかった。平日は毎日近所の公園で会う約束をして、そこでいつもヒーローの話をした。
「その約束、本当？」
一緒にヒーローになる…その子に言われ、純粋な疑問として聞いただけだ。
その子は微笑んで僕の方を見て言った。
「明日、ここに来れたら信じてね？」
僕は思った。いつも来てるのに…。けど、僕は嬉しくてしょうがなかったから、大きく頷いた。
きっかけは、かっちゃんからいじめられた後、僕がその公園でうずくまって泣いていた事だ。
大丈夫？ とその子は話しかけてきた。優しい声に顔を上げると金色に近い黄色と赤色の双眼が僕を見ていた。キラキラと光る宝石みたいで、とても綺麗だったのを覚えている。
僕と向き合う様にしゃがみ込み、擦りむいて出血している足を見て「治そうか？」と聞いてきた。できる事なら治して欲しかった。痛い。その痛さは物理的なもの以外に、自分が弱いという事を示している様で、心が痛かった。これ以上見たくなかった。
だから「うん」と頷くと、何もないところから透明の液体が入った手のひらサイズの小瓶を取り出した。その様子に驚く間もなく、自分の手のひらに小瓶に入った液体を滑り込ませ、僕の足の傷口に塗った。少ししみて身体を強張らせたが、次に見た現象に僕は目を奪われた。
目の前のその子が歌うと、その子の白銀に茶色が何束か混じっている色の髪の毛が金色に輝き始めた。しかも、髪の毛だけでなく、僕の傷口に塗られた液体まで光り始めた。
「うわっ！！？」
「大丈夫だよ…じっとしてて……」
言われた通り目を固く閉じて怖いのを耐えしのいでいたら、暫くすると歌声が止んだ。怪我したところを見るように言われ、そっと目を開けて見る。さっきまで怪我してたのが嘘のように、綺麗に傷口は無くなっていた。
「治ってる…」
思わずそうこぼすと、その子はにこりと笑った。
確かに約束をしたんだ。今日、この公園で会おうと。それなのに……。
齢5歳、無個性だった僕に光を与えてくれたその子とは、約束を交わしたきり、二度と会うことはなかった。
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作者名：えーり | 作成日時：2019年5月9日 0時
