『ワールドトリガー』私の彼氏は黒トリガー (ページ44)

今日:1 hit、昨日:13 hit、合計:46,205 hit

第42話ページ44

「東さん13％、荒船くん21％、緑川は・・・24％、っと」

水色の表紙の日記帳にボールペンで書き込みながら本部の廊下を歩くA。

すれ違うたびに視界に飛び込んでくる数値たちを拾い集め、せっせと作業に勤しんでいた。

人の手では作業スピードに難があるため、自分の周囲、近しい人の数値だけを記す。

一部の隊員はこの行為を“観測”と呼んでいた。

・・・もっともな表現だとAは思う。

そこに視えるだけで変えられない。介入不可能な確率の世界。

それを淡々と書き記していくAは、言うなればただの観測者だ。

観測者に数値の改変はできない。そういうルールなのだろうとAは勝手に納得していた。

そういった弱点も含まれて称される“観測”という行為に、果たして意味はあるのだろうか。

その答えは誰も知らない。A本人でさえもよく理解していない。

それでもAがこの観測を続けているのは、ひとえにこの組織を愛しているからだった。

「・・・なぁ、あれってS級の霧玄さんだよな？」

「あぁ、あの人？いつも日記帳とペン持ち歩いてるっていう」

「黒トリガー持ちでも、たいして強くないって噂だよね」

「あ、それ知ってる。けっこう前にA級の人と模擬戦してるの見た。8対2？だったかな」

食堂でたむろするC級隊員が、通り過ぎていくAの噂を撒き散らす。

あることないこと言われている気がするが、半分は本当なのだから仕方ない。

気にせずそのままスルーしようと歩いていたら、誰かがAの服の裾を掴んだ。

その感触に既視感を覚えつつ振り向くと、そこには不機嫌そうな表情の緑川が。

「どうしたの緑川？お腹すいた？」

「・・・俺、そんな子供じゃないんだけど」

明らかに機嫌を損ねた口調で緑川が呟く。その言動の意味を理解しかねて、Aは首を傾げた。

ややあって、緑川は重たげな口を開く。

「・・・Aさんはさ、悔しくないの？C級にあんなこと言われて」

緑川が拗ねている理由がやっと分かった。

彼はAの尾ひれがつきすぎた噂話に腹を立てていたのだ。Aのために。

Aは薄く微笑み、緑川の頭を軽く撫でた。

「悔しいよ。でも、事実だからさ。それにあんな噂話、言わせておけばいいんだよ」

まだ何か言いたげな緑川に目線を合わせてそう諭す。

周囲に聞こえるように言い放たれたそれには、少々の毒気が入り混じっていた。