『ワールドトリガー』私の彼氏は黒トリガー (ページ43)

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第41話ページ43

「・・・お待たせしました、コーヒーです」

着替えを済ませて裏方から出てきた桃葉が、そう言いながらコーヒーを置いて楓の隣に座る。

楓は小さく「ありがとう」と呟き、優雅にカップを口に運んだ。

カウンターの向こう、ガラス越しに見える風景。

せわしなく行き交う人々や車を何となく眺めながら、桃葉は気だるげに口を開く。

「なんで来たんですか」

「なんで、って・・・えーと」

楓は一度困ったように笑うと、カップを置いて真剣な表情になった。

「・・・環がね。最近ちょっと不安定で、心配なの」

「環？・・・別に、学校で会うときは普通に見えますけど」

「それが問題なのよ。周りには決して悩んでいる素振りを見せないものだから・・・」

「環らしいですね。・・・で、どんな風に不安定なんですか？」

カウンターテーブルに肘をつき、あまり興味なさげに話を聞く桃葉。

しかしその声音には、確かに心配の色が滲んでいた。

「対戦ブースで戦ってる時に、よくひとりで何か葛藤してるの。

　『おまえは出てくるな』とか、『俺にやらせろ』とか・・・」

「・・・あぁ、あれですか。たまに出てくるっていう、“もう一人の環”」

「そう。・・・今まではこんなにひどくなかったんだけど」

へぇ、と声を零して右手の甲を眺める桃葉。

そこには、鈍色に輝く指輪がはめられていた。

華美ではないが凝った装飾がなされているそれは、ボーダーが作った桃葉専用の武器。

「それなら、私のトリガーでどうにかできないですかね？」

「・・・無理でしょうね。精神に深く根付いたものは、記憶消去だけではどうにもならない」

そうですか。ならどうして私に相談を？

桃葉がそれを口に出す前に、楓はぐい、とコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「やっぱり環自身の問題だから、私たちがいくら悩んでも意味ないのかもしれないわね」

前髪に隠れた楓の表情がやや苦いものに変わっていたのは、コーヒーのためではないのだろう。

楓はそのまま支払いを済ませ、桃葉を連れてカフェを出る。

「ちょ、どこに連れていくつもりですか、楓さん」

「決まってるじゃない。本部よ。桃葉ちゃんだって、たまには暴れたいでしょう？」

楓の言葉に隠された真意。

それはおよそ二ヶ月ぶりの模擬戦の誘い。

桃葉は微かに口角を上げ、「今日は負けませんよ」と楓の後を追った。