『ワールドトリガー』私の彼氏は黒トリガー (ページ6)

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第5話ページ6

午前10時23分。

S級実力派エリートの迅は、とあるマンションの一室の前にいた。

「さぁて、未来はどう転がるかなぁ・・・？」

いつもの締まりのないにやけ顔でチャイムを鳴らす。

一回目。返事がない。

二回目。返事がない。

三回目・・・やっぱり返事がない。

「やっぱ寝てるか・・・」

そう呟きながら迅は鍵を取り出した。

そして目の前のドアの鍵穴に躊躇なくそれを差し込み、ガチャリと回す。

少し重い扉を開け、音を立てないように中に入った。

ここまで見るとまるで実力派エリートが不法侵入者のように見えるかもしれないが、

一応彼の尊厳を守るために言っておこう。この行為は同意の上である。

たまに寝坊をしてとんでもない失態をおかすAが、自身の部屋の鍵を渡して迅に頼んだのだ。

迅の未来予知のサイドエフェクトを使って、本当にまずい時には起こしに来てくれ、と。

迅にとっては傍迷惑な話だったろうに、彼は顔色一つ変えずに「いいよ」と応えた。

ちなみにそのやり取りをしたのは本部の廊下。

通りすがる人はみな、地球が滅亡しそうな勢いで凍りついていた。ような気がする。

唯一凍りつかなかったのは、ことの真相を知っていた風間と太刀川だけだった。

「おーい、Aちゃーん・・・？」

そう呼びかけながら迅は迷いなく寝室のほうへ向かい、Aを捜した。

「寝てる・・・よねぇ・・・？」

部屋の一番奥、窓に面した場所に置いてあるダブルベッドの上に、迅は蠢くシーツを見つけた。

「あー・・・えっと、Aちゃーん・・・？」

そーっとシーツを捲り、顔を確認する。

うん、やっぱりAだ。

でもどうしよう。

いままでで一番、起こすのが忍びないような幸せそうな寝顔してる・・・

ってそうじゃなくて！

「起きろA！会議に遅刻するぞ！このままじゃ未来が確定してしまう(棒)！」

「うわぁぁぁ大変だまた寝坊した！・・・お、おはよう迅！ありがとう助かった！」

起こすときの台詞までキッチリと決まっている恒例行事とともにAが飛び起きる。

シーツがぐしゃぐしゃになるほど寝相が悪いのに、腰まである黒髪はほぼ乱れない。

泣き腫らしたような赤い目を眠そうに擦りながら、Aは洗面所まで歩き出した。

顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かしてキッチンへ。

その間、迅は本棚に並べられたいくつもの日記帳を捲る。

これが、S級隊員である二人のよくある日常だった。