ch.2 彼の独り言 ページ6
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side S
長年の夢を叶えて、看護師になった。
実習の嵐、国家試験と、そこまでも大変だったけど、本当に大変なのはここからだった。
卒業後すぐに就職したのは、地方都市の総合病院。
日々膨大な業務と、女性の多い職場特有の人間関係のめんどさに、疲れ切ってしまった。
そんな俺を見兼ねてか、学生時代の先輩が紹介してくれると言ったのは、そこよりも田舎の総合病院。
前よりずっと人間関係も良くて、忙しいながらも穏やかに過ごせた。
病院を移って落ち着いた頃に、訪問診療の担当になった。
病棟勤務と違うめんどさもあったけど、元々人と話すのは好きだし、訪問先にも大体受け入れてもらえていた。
その訪問先のひとつが、星合家だった。
最初に行った時は大きなお屋敷にびっくりして、さらにそこにはおばあちゃんと若い女の子しか住んでないと聞いてさらにびっくりした。
おばあちゃんと、そのお孫さんだという女の子、Aは、俺を温かく迎え入れてくれた。
田舎のお年寄りだと最初は他所者として警戒される事も多いのに、そういう偏見みたいなものもなくて、星合家は行くのが楽しみになる訪問先になった。
そのうち、他の訪問先のお宅で、星合家についての話を聞くことがあった。
「星詠み」という不思議なチカラと、代々続く歴史みたいなもの。
てことはあの子、Aちゃんが星詠み、織姫ってやつになるのかー、くらいに思っていた。
星合家の訪問診療も問題なく続いていたのに、ある時突然、おばあちゃんがこんなことを言い出した。
「ねえ、先生。
私ね、もう長くないのよ、先生後はよろしくね、」
「え……っ」
思わずそう言っておばあちゃんを凝視した俺と、珍しく動揺して固まる先生。
おばあちゃんはそれを気にもせず、ニコニコとしていた。
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作者名：しろ鮎
| 作成日時：2023年8月29日 20時
