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ちょうど開けた場所に出たところだったし、梅雨の晴れ間で今夜は天気も良い。
星を探すにはちょうどよかった。
「えーと、まず…あっちの空に見える明るい星、分かるかな?」
まだ7月に入ったばかり。
織姫、彦星を含む夏の大三角は8月が一番見つけやすいのだけど、なんとか坂田くんに見つけてもらえるよう説明を始めた。
「うーん…あれかな?」
「多分合ってる、この時期に東の空で一番明るいのが織姫、こと座のベガなの。そこから、平行四辺形を描くように右下へ降りていくと、彦星、わし座のアルタイルが見つかるよ」
自分の指で平行四辺形を作って、空にかざす。
坂田くんも私を真似して自分で作っていたけど難しかったらしく、屈んでこちらへ身を寄せ、私の方を覗いてきた。
「そもそも平行四辺形を作るのが俺にはむずいわ…、ちょっとAのほう見せて?」
「いいよ、この平行四辺形の、こっちの角がベガね、で、こっちの角のほうにあるのがアルタイル…」
説明しながら坂田くんの反応を見ようとしたけど、思ったより随分と顔が近い。
私の手を通じてその先の夜空で真剣に星を探す彼の横顔に、思わず見惚れてしまった。
ここまで近づいたのは初めてだ。
丸くて大きな瞳、長い睫毛。
見つめすぎていたのか、坂田くんがこちらに気付く。
視線が合って、数秒経った後、パッと逸らされた。
「…Aって…なんていうか…小悪魔っぽいとこあるん?」
「…へ?」
間抜けな声が出た。そんな風に言われたのは初めてだ。
坂田くんは、少し苦笑して言った。
「いや、ごめん。でもさ。」
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時