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わけがわからず見上げると、照れながらも真剣な表情の彼がいて。
その表情に見惚れているうちに、彼の手が私の口から離れ。
代わりに彼の唇が、一瞬、触れた。
「…………!!!」
一瞬の出来事で、呆気に取られていると、また、コンコン、とノックの音が聞こえ、今度は
「Aちゃん?居る?」と、女性の声がした。
鈴木さんだ。
「は、はい!いますっ!」
上擦った声で返事をすると、引き戸が開く。
「Aちゃんどう、だいじょ……」
大丈夫?と聞いてくれようとしたのだろうけど、入ってきた鈴木さんは、私と、その隣、近すぎる距離にいる坂田くんに、目を見開いた。
「………あはは、ごめんね、おばちゃん邪魔しちゃったわ」
数秒の後、取り繕うように言葉を発して去ろうとした鈴木さんを慌てて止めた。
「いえいえ!そんな!居てください!」
坂田くんも流石に気まずいのだろう、こくこくと頷いている。
なんとか場が収まったところで、鈴木さんが眉を下げて笑った。
「その様子だと、昨夜は楽しめたみたいね、星空デート」
その言葉に、私も坂田くんも「ハイ」としか言えず俯く。もうあまり突っ込まれたくない。
「あ、あの、靴…ありがとうございました」
思い出して言うと、鈴木さんは今度は優しく笑った。
「いいのよ。私も二人のお役に立てて嬉しいし。…坂田くん、Aちゃんのこと頼むわね」
「は、ハイ!」
弾かれたように返事をした彼を見て、私への想いがまた少し感じ取れて、心が温かくなった。
「ほら、キミはそろそろ行く時間でしょ!」
「え、あ、そうやった…!行ってきます…!」
鈴木さんに急かされ慌てて病室を出ていく坂田くんは、最後にチラッと私を見て、照れたように笑って、
「また、連絡するから」と言って出て行った。
鈴木さんに散々からかわれながら退院の手続きをして、無事に病院から外へ出られた。
梅雨の晴れ間の青空が、私と、彼のこの先を祝ってくれているようだった。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時