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「ううん。仕方ないなんて、全然思ってないよ。
織姫だったおばあちゃんはずっと素敵な人だったし、きっと、お母さんだって…そうだったと思うし…」
二人のことを思い出すと、二人に対する尊敬と、今は居ないことの寂しさと、もっと関わっていたかったという後悔と、色々な気持ちがごちゃ混ぜになった。
自然と視線が落ちて、視界がぼやけた。
その私を見て、坂田くんがハッとしたように言った。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったのに、悲しいこと思い出させてもうた、」
坂田くんのせいじゃない、と、言えれば良かったのだけど、思うように声が出せず、また首を横に振ることしか出来なかった。
あわあわしながらも、坂田くんは私の頭や頬をゆっくり撫でてくれる。
「これじゃ、彦星になれんかもなあ、俺…」
心底反省したように言う彼に、顔を上げて答えた。
「ううん、坂田くんだって、私のことを思って言ってくれてるんだし、そこはちゃんと伝わってるから、大丈夫だよ」
私が運命に縛られていないか。坂田くんはそこを気にして、あんなことを言ったのだと思う。
私の言葉を聞いて、目を丸くした後、ゆっくりと、その表情を、柔らかな笑顔に変えた。
それは、愛おしいものを見つめるような表情で。
自分がその対象にされているのだと感じて、顔がまた一気に熱くなった。
彼の潤んだような紅い瞳は、こちらにずっと向いたままだ。
「ね、A」
「?」
「俺さ。Aは織姫で、俺は…彦星、に、なれたらいいなって、今は思ってるんよ」
「………」
正直なところ、すごく嬉しかった。
でもそれは、坂田くんの運命を私が縛ってしまうような気がして、大きく同意するのも気が引けてしまい、浅く頷くだけになってしまった。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時