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ますます何も言えなくなった私をそのままに、坂田くんは続けた。
「最近一緒に散歩も行けてないし、心配はしてたんよ、A、頑張り過ぎちゃうとこあるし。」
「…」
返す言葉は見つからなかったけど、ちゃんと聴いていることを示したくて、彼の腕の中で小さく頷いた。
「でも連絡も出来らんくて…、ほんまにごめんな、もうちょっと俺がちゃんと出来てたら」
「ちがうよ、全然坂田くんのせいじゃないから!」
何故か坂田くんが自分を責め始めたので、否定するために彼に向き直った。
変わらず彼の腕の中だったけど、正面に彼がくるよう向きを変え、顔をあげた。
彼の紅い瞳は、少しの不安を映しながらも、まるく見開かれている。
そのまま目を合わせて、私は彼に言った。
「体調を崩しちゃったのは、ホントに、私のせい。私だって、坂田くんに連絡取れなかったし、ずっと、会いたいって思ってたのに、行動出来なくて…こんなことになっちゃうし。
…でも、良かった」
「?」
私が急に肯定し始めたから、坂田くんはその理由を問うように私を見つめている。
「ちょうどね、…七夕の夜くらいは、坂田くんに会いたいなあ、って、坂田くんと星が見たいなあ、って思ってたの。
こんな形だけど、一緒に見られて良かった…!」
最後まで言い切る前に言葉に詰まってしまった。
彼がまた、私を正面から抱きしめたからだった。
ぎゅうって音がしそうなくらい、彼の腕に力がこもっている。
それでも私を気遣ってくれているのが感じられて、本当にどこまでも優しい人なんだなあ、と思えた。
「俺も。Aと一緒に見られて、ほんまに嬉しい。」
どこまでも真っ直ぐな、彼の気持ちが、私の心に沁み込んでいくようだった。
それに応えるように、そっと彼の背中に腕を回した。
しばらくそうしていたけど、私の方から口を開いた。
「…星を見る為に上がってきたのに、あんまり見てないね、私たち」
「あっ、ほんまや…!せっかくだから見よ!」
坂田くんは私の言葉に慌てたように返して、パッと身体を離した。
…さっきの坂田くんみたいに、自分から言い出したけど、ちょっと寂しくなっちゃったな。そんな事言えないけど。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時