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言っていた通り、20分程で坂田くんは来てくれた。
それまでになんとか見られるような格好をし直して、
玄関先で「こんばんは!」と元気よく挨拶したものの、坂田くんはそんな私を見て苦笑した。
「無理に元気出さんでええよ、そんなつもりで誘ったんとちゃうし…」
「…すみません」
思わず出た言葉に、坂田さんは私との距離を少し詰めた。
そうして、正面から私の頭をぽんぽんと撫でた。
「こらこら、謝るんもちゃうって。俺こそそんな気ー使わせちゃってごめんな」
「いえ、そんな…」
「まあ、気楽に行こ?特に目的もないからぶらぶらしよ」
坂田くんの、落ち着いた優しいトーンの言葉が身体にスッと入ってくる。
頷いた私を見て、坂田くんはにっこりと笑って歩き出した。
歩きながら、今まで話していなかった事を色々と話した。
坂田くんがここへ来る前のこととか、私の小さかった頃の話とか。
坂田くんは私が元気がなかった理由を、無理に聞こうとしなかった。
たわいも無い話を続けながらのんびり歩くのは、とても心地よくて、落ち着く時間だった。
ふと、坂田くんが思いついたように言った。
「なあ、織姫ってどの星?」
「え?」
急なことでちょっと混乱して聞き返すと、坂田くんは慌てたように言った。
「あ、あの、普通の星のこと。織姫とか、彦星とか、時期的に今見えるんやんな?」
「あ、そうで…そうだね、見えるよ」
「どれ?Aち…Aはそういうの詳しいやろうから、教えて欲しいな?」
お互いに、相手に対する言葉遣いを直しつつ話す。
そのたどたどしいやりとりが、お互いに距離を縮めようとしているのだと感じられて、少し擽ったい気持ちになった。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時