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数分も経っただろうか、坂田くんがふいに問いかけてきた。
「で、どれやったっけ？」
「なにが？」
「織姫と、彦星」
夜のお散歩に初めて行った時に説明した星だ。
あれから少し経っているから、星の位置も少しだけ変わっている。
「あっちの空だよ」
手をするりと解いて、数歩進んだ後、東の空を指差す。
ここのところ、職場の科学館でもその話をする事が多かったから、位置はすぐ分かる。
「こっち側の、一番明るい星が、っ、」
振り返って説明を始めようとしたのに、言葉に詰まってしまった。
振り返る前に、後ろから、ふわりと彼に包まれたからだった。
場所は病院の屋上。
私は入院中の身だからパジャマ姿だし、ノーメイクだし、あまり雰囲気があるとは言えなかったけど、坂田くんのほうはそんなこと思っていなさそうで。
顔は見えなかったけど、ぐっと引き寄せられた勢いだとか、その後、壊れ物を扱うように包み込んでくれた腕の感触だとかで、私に対する想いが感じ取れた。
動揺する私に、坂田くんは後ろからそっと話しかける。
「…俺から手ぇ離すような事言ったのに、離されたら寂しくなっちゃった」
耳元で吐息混じりにそう言われて、一気に顔が熱くなった。
「え、あ、あの、」
どう返せば良いか分からず、しどろもどろになる。
その様子に彼が、ふっと笑った。
「A、挙動不審すぎやろ、おもろ」
「いや、だって、その、あんまりこういう事、された事ないし…」
恋愛経験の少ない私はそれしか答えられない。
「俺も」
そこで、ぐっと彼が力を入れた。
少し向きが変わって、私の右耳が彼の胸に押しつけられるような形になる。
「こんなん、した事ないし…めっちゃ、どきどきしてる」
彼の言う通り、確かに、私の耳に速い鼓動が聞こえる。
同じように思ってくれているんだと感じられて、私の鼓動は余計に速くなった。
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作者名：しろ鮎
| 作成日時：2023年8月29日 20時
