ch.5 星空の下で ページ18
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約束した、消灯時間を少し過ぎたころ。
きちんと部屋の明かりを消して、暗い中ベッドに腰掛けて緊張しながら待っていると、
病室の引き戸がスッと開いた。
『コンコンってすると廊下に響くからな、そのまま開けるから』とさっき彼が言っていた通りだ。
そっと開かれた隙間から、ひょっこりと坂田くんが覗いた。目が合うと、にっこりと笑顔を見せてくれ、そのまま、ちょいちょいと手招きをされた。
腰掛けていたベッドから降りて、スリッパを履き、なるべく足音を立てずに彼の側へ近づいた。
坂田くんは、「これ、」と、囁くように私に何かを差し出した。
いわゆるナースシューズというやつで、これを履けということらしい。
「スリッパやと音が響くし…鈴木さんにお願いして借りてきてん」
坂田くんは多分事情も全部話して頼み込んでくれたのだろう。鈴木さんよく許してくれたな…と、昼間の彼女の安堵した表情を思い出す。
受け取って履こうとすると、中に折り畳まれたメモ用紙が入っていた。
手にとって開くと、「Aちゃん、星空デート☆楽しんでね！」と書かれていた。予想外の軽快な調子に拍子抜けしてしまった。
感謝の気持ちを込めながらポケットに丁寧に紙をしまい、それを履いた。
坂田くんが先導する廊下、いくつかの病室の前を、なるべく足音を立てないように歩く。
途中、ナースステーションの前を通らなければならず、中の看護師さんに見つからないよう、姿勢を低くして、そうっと、素早く通り抜けた。
そこから少し進んだところで、先を進む坂田くんが、こちらへ振り返り、黙って手を差し出してきた。
迷わず自分の手を重ねると、彼はぎゅっと握り、また先を示すように歩き出した。
廊下の突き当たりまで来て、そこにある扉を慎重に開ける。
そこは非常階段へ繋がっていた。
階段へ出て扉を閉めてしまえばもう音は気にしなくても良いはずなのに、二人とも無言で、変わらず手を繋いで、そっと歩いた。
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作者名：しろ鮎
| 作成日時：2023年8月29日 20時
