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「え、あ、あの、」
こんな風に食べさせてもらうのなんて自分の記憶の中にはない。
きっと赤ちゃんの頃ならお母さんとかに食べさせてもらっていたのだろうけど。
とにかく恥ずかしくて、どうしたら良いかあわあわしていると、
「ほら、早くしないと溢れるって」
と急かされ、仕方なく口を開けた。
間もなく、唇にスプーンが触れて、優しいスープの味が口の中に広がった。
「……美味しい？」
「…う、うん」
覗き込むようにこちらを見る彼の顔が、近い。
チラリと見ると、いつもならまんまるの紅い瞳が細められ、嬉しそうに私を見つめていた。
それを見てまた顔が熱くなる。
もうひと口、と勧められるまま口にしたけど、流石に恥ずかしさに耐えられない。
数回で「もう、本当に、自分で出来るから、返して」とお願いすると、
「そんなに恥ずかしがらんでもええのに〜」と言いながらもスプーンを渡してくれた。
その後、私が完食するまで、坂田くんはずっとニコニコしながら私を見ていて、食べづらくて仕方なかった。
「ごちそうさまでした、」
見られている為普段よりも幾分控えめに手を合わせると、坂田くんは満足したように笑顔を見せて、トレイを持ち上げ、廊下へ片付けに行ってくれた。
だいぶ力が入っていたようで、ホッと息をついてしまう。
坂田くんは間もなく戻ってきて、また椅子に腰掛けた。
何か話そうか、と思っていると、彼の方から口を開いた。
「さ、とりあえず一旦帰るわ」
「？…う、うん」
一旦、とは？明日の朝仕事にまた来るという意味なのかと思ったけど、次の彼の言葉でまた疑問が増えた。
「また夜に来るな？」
「ん？」
夜に仕事…ではないよね？坂田くんは訪問診療担当だから基本的には日勤のはずだ。
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作者名：しろ鮎
| 作成日時：2023年8月29日 20時
