ch.1 夜のお散歩 ページ2
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着信を告げるスマホの、その画面を見て、そっと《通話》をタップした。
『Aちゃん、こんばんは!』
彼の元気な声が耳元に響いた。
「坂田くん…」
私が名前を呼び返すと、向こうの声は途端に心配そうなトーンに変わった。
『え、え、どしたん…?元気ないやん』
「うん……」
そんなことないよ、とも言えなかった。
色々なことを考えすぎて疲れてしまったようで、坂田くんに返す言葉も見つからない。
『えーと、…その…、』
明らかに困らせてしまっている。
何か返さないと、と思ったものの、やはり何も出てこない。
数秒の沈黙の後、向こうから声が聞こえた。
『…ちょっと…今から散歩でも行く?』
「…え、」
突拍子もない提案に、間抜けな声を出してしまったけど、電話の向こうの彼は優しく言った。
『俺、夜に散歩すんの好きなんよね。Aちゃんが良いなら…一緒にどうかな?』
「っ…、是非。行かせてください」
彼の優しさに胸が温かくなって、すぐ返答が出た。
『じゃあ、とりあえずAちゃんちまで行くわ、歩いてくから20分くらいかなー?それまでに支度しといて?』
「はい、分かりました」
『ふふ、敬語なかなか取れらんねー』なんて笑いながら、じゃあまた後で、と、電話が切れた。
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2023年8月29日 20時