重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第80話　首領の拾い物 ページ33

「なンだァ、この声は？ 此処は、餓鬼(ガキ)が来る処じゃねェぞ？」

　Aから実験概要を聞いた、16日後の夕方頃だった。
　マフィアビルの外まで聞こえる職場に相応(ふさわ)しくない甲(かん)高い泣き声に、辟易(へきえき)した態度を見せる俺の視界に、見慣れた白衣姿の首領(ボス)が、我々に背を向けた状態で玄関口で座り込んでいた。その隣には、エリス嬢が居(お)られ、足元には大量の紙袋が置かれている。

「ねェ、チュウヤ！ あの子達の事、なんとかしてあげて」
「嗚呼、中也君。丁度好(よ)かった。この子達の世話を頼むよ」
「…は？」

　困り果てた様子の首領(ボス)が抱えた、幼年幼女の面影に見覚えがあった。
　幼くなっているが、間違いなくAと大我本人だ。
　綺麗に磨かれた床には点々と血痕と靴跡があり、真新しい靴とは正反対に、若干傷(いた)んでいる薄手の子供服のあちこちに血が滲(にじ)み出て、赤黒い染みができていた。首領(ボス)を怖がっているのか顔面蒼白で、口を一文字に固く結び言葉を発する気も、Aに至っては、小さな右手は何かを握って中身を離す様子も無い。細い両手足にも、複数の切り傷を作っていた。つまり、頑(かたく)なに心を閉ざしている状態だ。
　だが、何時迄(いつまで)も黙った儘(まま)じゃ埒(らち)が明かねェし、時間を浪費しないために屈(かが)んで、エリス嬢より幼いAと大我に視線を合わせて、まずは話しかけてみる。

「手前(テメェ)ら。なんで泣いてンだ？」
「こわい。いたい事されるの、やだ」

　胸の内を言葉できて安堵したみたいだが、Aは全く涙を流す事なく、動き易いように結ばれているブラウスの裾(すそ)を掴んだ。

「首領(ボス)は、痛い事なんてしねェよ」
「するもん。いっぱいちゅうしゃして、なぐられてけられて血が出ても、あたしを見て、ずっとわらってるだけだよ」

　首を横に振る彼女の発言と幼少期の経験から、『白衣姿の大人＝研究員』という図式ができ、大我は単に見知らぬ大人に警戒しているんだろう。

「２人共、よく頑張ったなァ。偉いぞ」
「僕達、えらいの？」
「おう」
「姉さん。えらいんだって」
「そう」

　反抗する仕草を見せてこないため、そこに手を置いて撫でていく。数秒間されるが儘(まま)でも、２人が幼いなりに考えてた末に移した行動は、涙を流す事だった。

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