重力使い、絶賛悶絶中。 《中原中也》

第50話　身内の反対 ページ3

「お帰り。A」
「只今帰りました。お婆様。お父様。お母様」

　中也から求婚(プロポーズ)された日の週末。あたしは、実家に帰省していた。
　60代後半の祖母は、孫娘を抱擁して温かく迎え入れてくれたが、彼女の背後に立つ父が、いつになく険しい。母は、彼の隣で心配顔をしている。

「先々月ぶりですね。これ、お土産です」
「…ああ。貰(もら)っておこう」

　珍しくつっけんどんな物言いに、何事かと内心身構え、居間の長机を前に爺やのエスコートで着席した。しかし、41代目当主である父を始め、誰も言葉を発する気はなく、ただ重苦しい沈黙だけが室内を支配していく。しばらくして、父が重い口を開けて発言した。

「Aのお見合い相手の事は、お前と母(かあ)様から聞いた。私は、彼の名前と容姿しか知らないが、爺(じい)様の事だ。ポートマフィアと繋がりのある者を選んだんだろう。それくらいは想像がつく」

　実父の言葉の端々に拒絶反応が垣間見え、『これは、雲行きが怪しい』と鑑(かんが)みたが、奇(く)しくも予想が当たってしまう。

「今更(さら)だが、私は反対だ」
「…理由を聞かせて頂けませんか？」

　決して感情に振り回される事なく、努めて冷静に質問をする。お婆様とお母様は、静観する姿勢を見せ、援護は見込めない。父や彼女達の背後に控える使用人達は、立場上、口を挟む事は出来ない。この場面(せんじょう)で信頼できるのは己のみと判断して、淡々とした態度を貫く。

「ポートマフィアに関わる者ならば、直接的であれ、間接的であれ、何らかの形で裏社会にもある程度顔が効くはずだ。人殺しを生業(なりわい)としているかもしれん。そんな、いつ死んでも可笑(おか)しくない危険な世界に、愛娘を嫁にやれる訳(わけ)がないだろう!? やっと…。やっと、16年振りに再会できたのに、また手放す真似なんて、俺には無理だ。到底できない！」
「なるほど。お父様の意見は、一理ありますね」

　最後は、一人称も崩れて悲鳴に近かったが、そんな事で動揺し、やっと掴(つか)んだ幸せを易々(やすやす)と手放せるほど、お人好しではない。

「先々月、お父様に電話口で、あたしの生い立ちと、彼との関係をお伝えしたはずですが、納得されていないようですので、直接現地に赴(おもむ)きましょう」
「…現地？」
「はい。お２人の休日が重なる日に、横浜に行く予定を立てて下さい」

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