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第52話 百聞は一見に如かず ページ5

「それで、擂鉢街(げんち)は、どうでしたか?」

 投げやりな言葉で、放心状態の両親に問いかけた。
 貧民街から見て外にある喫茶店の一角。奥まった場所にある四人掛けの席では、(いま)だに言葉を発せない中年の男女が、隣同士で着席している。

「…Aは…、何年あそこに住んでいたんだ?」
「5年半です」

 やっと声を出せた父の質問に、短く返答する。あたしが勝手に注文したアイリッシュ珈琲(コーヒー)とミルクティーは、とうの昔に冷めきっていた。それを横目にカフェオレを飲み干した自分は、早々に昼食がてらオムライスを注文し、同じ飲み物のおかわりを給仕(ウエヰター)にお願いする。

「どうやって生きて…。嗚呼。それは、聞いていたか」

 相当衝撃を受けたらしく、父は独り言を(つぶや)いていた。すると、意を決したように母が、一度深く息を吸い込む。手巾(ハンカチ)を震える手で握っているのは精神状態を落ち着かせるためだろうと、冷戦に分析している自分がいた。

「ねぇ、A。『羊の王』って誰の事? 重力使いって何?」
「両方共、中也さんの事です。重力を操る異能を持っているんです。かつて、あたしは、彼を中心とした組織の右腕として支えてきました。そして、これからも、彼の隣で力になると決意しています。(ちな)みに、彼の前で『羊の王』は禁句です。『羊』の事も、(あわ)せて言わないで頂けますか?」
「ええ。わかったわ」

 消え入るような小さな声だったが、人心地がつき、冷めたミルクティーを喉に流し込んでいく。推測で相手を判断されるより、現実を見せたほうが手っ取り早く済むと思って、こうして両親を連れてきた次第だったけれど、思いの(ほか)、効果は絶大だったようだ。
 独り満足して、机上に置かれたオムライスを前に、女給仕(ウエヰトレス)に礼を述べる。会釈して去っていく彼女を尻目に、(スプーン)を手に取って、それを口に運び、その美味(おい)しさに頬が(ほころ)んだ。

「…よく生き延びてくれたなァ」
「それは結果論ですが、あの場所で、むざむざ死にたくありませんでしたから」

 父が、涙目でコップの(ふち)を掴み、何度か(うなず)いてから、珈琲(コーヒー)に口をつけた。

「A。来月末の土曜日なら都合がつくから、顔を見せなさい」

 その一言が何を意味するのか一瞬判らず、思考を停止していた。

第53話 行動の意味→←第51話 擂鉢街



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 中原中也 , イケメン女子   
作品ジャンル:恋愛
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エミリア1415(プロフ) - 薫染-ゆきせ-さん» 薫染ゆきせさん、コメントと応援。ご指摘ありがとうございます。意味を間違えて使っていました。教えて頂き、ありがとうございます。すぐに修正しますね。更新も頑張ります。 (2019年8月25日 21時) (レス) id: 82aefb6635 (このIDを非表示/違反報告)
薫染-ゆきせ-(プロフ) - 此れからも更新頑張って下さい!2枠続けてのコメント失礼しました。あと 言葉運びが意図的なものだったらすみません! (2019年8月25日 20時) (レス) id: e1459da1b7 (このIDを非表示/違反報告)
薫染-ゆきせ-(プロフ) - 何時も楽しく読ませて貰ってます!89話の中の台詞についてなんですけど…内容的に「満身創痍」ではなく「五体満足」の方があっていると思いますよ。あの台詞だと「全身傷だらけで良かった。」みたいな意味になってしまうので…可也 上から目線ですね。すみません (2019年8月25日 20時) (レス) id: e1459da1b7 (このIDを非表示/違反報告)
エミリア1415(プロフ) - 銀桜さん、コメントありがとうございます。少しでも話を進められるように、更新頑張りますね。 (2019年8月22日 17時) (レス) id: 82aefb6635 (このIDを非表示/違反報告)
銀桜(プロフ) - あぁ、夢主ちゃんと大我くんが元に戻って良かったです。更新頑張ってください! (2019年8月22日 17時) (レス) id: 1194b2a018 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:エミリア | 作成日時:2019年6月30日 13時

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