第12話 わがまま ページ13
「酒場で待っているぞ」
それに短く答える彼の瞳は、しっかりあたしを捉えている。ナルサスの気配が遠くに消えた頃、彼が話を切り出した。
「無事で良かった。あの銀仮面に、何もされていないか?」
「ああ。ダリューンも、元気そうで何よりだ」
「…A?」
いつか別れる日が来るのは判っていたが、いざ、彼を目の前にして、今夜で最後なのだと思うと、大粒の涙があふれた。
「…ダリューン。すまない」
「謝るな。お前自身が決めた事だろう?」
「違う。そうじゃない。あたしは、まだダリューンを騙している」
「?」
首元を覆っている服を下げ、月明かりの下に晒した。彼の眼が見開かれる。
「そんな…っ!」
「やはり、覚えているようだな」
エメラルドの首飾り。10才の誕生日に、貴方がくれた者のお陰で、魔術師は一切近づかない。
「言っただろう? 一生大切にすると」
「A姫…?」
「そうだ」
「……」
黒騎士は、しばらく絶句して、あたしと首飾りを交互に見比べる。その間に、涙は引っこんでいた。案外、精神的にも図太くなったものだな、と自己分析する。
「なんのために、身分を偽ったのですか?」
「アンドラゴラスへの復讐。それだけだ」
「…そう…ですか」
彼の瞳に、動揺と苦悩の色が濃く映る。下唇を噛み、どうにかして感情を制御しているのが見て取れた。これ以上、彼に心配をかけさせまいと、できる限り明るい声で話しかける。
「ダリューン。最初で最後のわがままを聞いてくれる?」
「はい。なんなりとお申しつけ下さいませ」
もう、そこには親友ではなく、一人の騎士としてのダリューンがいた。
毅然とした態度と瞳に、幾度となく射抜かれてきた。
鈍感なあなたは、あたしの気持ちに気づかない。でも、そのほうがいいの。
あなたは騎士で、あたしは皇女。守る側と守られる側。
許されない恋だから。だがら、せめて未練のなきよう、これだけは言わせて。
「幼い頃に交わした約束を果たしたいの」
(このダリューン、必ずや万騎長となり、姫を守ってみせます)
(嬉しい。楽しみにしています)
「分かりました。このダリューン。今宵、片道限りではございますが、貴女だけのマルズバーンとなりましょう」
あたしは、敵として彼を見送る。それは、彼とて同じ事。
神を信じないが、この時ばかりはこう祈る。
もう少しだけ、彼の傍に居させて下さい。
去り際に彼から手の甲に口づけをされて、儚き夢は終わりを告げた。
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エミリア1415(プロフ) - お久しぶりです、イヴィさん。季節は冬で、年末のマンハッタン。ベタだな…と自分でツッコミつつ、次の話を組み立てている最中です。 (2016年9月30日 10時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - キャー\(//∇//)\2人で旅行とは…!これはますます見逃せません!次話での展開楽しみです! (2016年9月29日 23時) (レス) id: 5980d81e59 (このIDを非表示/違反報告)
エミリア1415(プロフ) - コメントありがとうございます。作者も、ここから話をどう組み立てるのか分かりませんが、最終的にはハッピーエンドにしたいと思います。 (2016年7月5日 22時) (レス) id: 37abc421ec (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - まさかの犯人ダリューン…これは予想外ですΣ(゚д゚lll)驚きのMAXですどうなっちゃうの次話?! (2016年7月5日 19時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
イヴィ - ありがとうございます\(//∇//)\凄く楽しみにしてたのでとても嬉しいです!何やら記憶も戻りつつあるようですし次回が今から待ち遠しいです! (2016年6月22日 23時) (レス) id: 1461fa90cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミリア | 作成日時:2015年7月24日 22時