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【ノッキンオンロックドドア】
その事務所にチャイムも呼び鈴もノッカーも存在しない。
それを考えたのは変わった思考の持ち主の俺の友人御殿場倒理。倒理の相棒であり、もう1人の俺の友人片無氷雨は最初は反対をしていたようだが、倒理に口で氷雨が勝てる訳もなく倒理の意見通り、この事務所にそういった類のものはない。
だが、それはそれで面白い。
多種多様のノックから人物像を読み解いていく2人を眺めるもの悪くは無い。
そして、今日もノックが響く。
『薬子、何か手伝うことは?』
「大丈夫です!Aさんは大好物の…はい!黒糖まんじゅう!食べててください!」
棚から出された黒糖まんじゅう。笑顔で渡す薬子から受け取り1口口に入れる。
『美味い…。』
口に広がる甘味を噛みしめそう呟く。
「…Aさんもやっぱり推せます。」
『…?よく分からないことをまた。』
二口三口と食べ進めればドアの前で氷雨とそのドア先に居るであろう倒理のやり取りが済んだようだ。
倒理と共に入ってきた依頼人らしき女性はおどおどとした様子でメモを読み上げる。
「あの、こちら…ノッキンオン…えと」
「探偵事務所…ノッキンオンロックドドア」
読み上げにくそうな依頼人の代わりに氷雨が少し恥ずかしそうに看板代わりのレコードに書かれた事務所名を読み上げる。
「名前言う時若干照れるのいつまで続くんだよ。」
面白そうに口を開く倒理を無視し、氷雨は依頼人と向き合い、「こちらへどうぞ」ソファーに案内する。
(…ツンとする匂い?なんだ?)
「薬子ちゃん時間だ、あと3分で国の規定を超えるあがって」
「あたしには労働が必要なんです」
「そもそもうちには家政婦を雇う金は無い」
「家政婦さん…?」
2人のやり取りを聞きながら依頼人はますます不安げだ。
「ちなみに今月の労働の対価まだですが?」
「その依頼人とA次第だ」
『おいおい、俺だって基本的にお前らの謎の情報を収集してるだけだ。収入がある訳でも、薬子の対価を支払える訳でもない。』
「あー!色々つっこみたいところはあるかと思いますけど、スルーしてください。」
氷雨が笑顔で言うと、渋々と言った様子で、依頼人が座る。そこに薬子が依頼人のお茶、倒理のお茶、氷雨のお茶、そして冷蔵庫近くに立つ俺に手渡しで渡してくる。
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作者名:こはく | 作成日時:2023年8月27日 12時