プロローグ ページ1
昨日と変わらない今日。
今日と変わらない明日。
それは平和な日本に生きる普通の人間からしてみれば当然に与えられるもので、それはごくごく一般的な女子高生である一ノ瀬 沙霧も例外ではなかった。
沙霧は五人家族の一員だ。三人姉弟の末っ子で、兄の名は
両親は単身赴任で家におらず、姉もイギリスに留学中なので実質兄との二人暮らしである。
家庭環境こそ普通とは言い難かったが、それでも沙霧は平凡の域を出なかった。
顔は友人の緒方 夏蓮曰く「いいっちゃいいけど周りに埋まっちゃいそー」。
成績は良くて上の下、もしくは中の上程度。勉強する気合いを入れるための目標なんてものは当分見つかりそうもなく、大学受験までも時間があるからその時はその時、くらいにしか考えていない。
恋人もなし。というか、兄の影響で若干オタク化しているので正直興味がない。花の女子高生なんだからもっと青春しようよ、とは先ほども紹介した緒方の弁。
今日も今日とて、沙霧は寝起きのぼんやりとする頭をなんとか覚醒させてベッドから出た。
うつらうつらと船を漕ぎながらも、珍しい暗い紫のブレザーに身を包む。
ところどころ寝癖のハネたボブカットの黒髪を整え、部屋で駄々をこねる兄を万年床から引きずり出し、兄の口に目玉焼きトーストを捩じ込んだ後に自分も朝食をとる。
手の中にあるマグカップに注がれたココアを飲み干して、沙霧はガタンと立ち上がった。
「はひひ、ひょうなんひはえってくふ?(訳:沙霧、今日何時帰ってくる?)」
「口の中のもの飲み込んでから言ってよ......多分4時くらいかな」
「ほーはい(訳:了解)」
兄のもぐもぐ語(沙霧命名)をしれっと翻訳しつつ、沙霧は玄関で茶色のシンプルなローファーをつっかけた。
「それじゃあお兄ちゃん、いってきます!」
「おー、いってらっしゃい」
厚い眼鏡のレンズの向こうにある、自分と揃いの唐紅の瞳を一瞬だけ見つめ返してから、沙霧は自らの通う有栖川高校へと走り出した。
女子高生、一ノ瀬 沙霧はいたって平々凡々な少女
今日この日を境に、彼女の運命の歯車は軋み始める。
それが吉と出るか凶と出るか、全ては神だけが知っている......かもしれない。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:不知火 | 作成日時:2020年1月21日 21時