・ ページ7
．
彼は机に突っ伏して寝ていた。
県内強豪バレー部の、それも一年生にも関わらずレギュラー、おまけにどうやらスポーツ推薦らしい。
私自身、運動はからっきしなので素直に尊敬する。
それに一度だけ、バレー部の練習を見に行った。
ミーハーな友達が『及川先輩』とやらを見に行きたいから、と言って私を連れていった。
学校ではぼんやりと過ごす国見くんが、部活動で汗を流して練習している姿は新鮮だった。
私は今でも、焼き付いて離れることのない、その姿が忘れられない。
もう一度見に行く、なんてそんな勇気は出なかったけれど。
ともかく、その時から私は国見くんに対する評価を改めた。
だから、面倒なクラスメイトだなんて思っていない。
心の底から応援している。
バレー部で頑張っているのを知っている。
授業中疲れて眠くなってしまうのも、ある種仕方ないとすら思う。
「国見くん」
仕方ないとは思う、でも提出物を守らないのはそれとこれとは別だ。
まず大体、提出物を出さないで困るのは提出者自身なのだ。
それならば、人の手を煩わせずに提出するべきだと思う。
というわけで、私がわざわざ回収するために起こしに来るまで提出してこない、というのはいくら強豪バレー部期待の部員だとしてもどうかと思う。
「……国見くんってば、ちょっと、起きて」
「…………何？」
寝るために丸めたのであろう背中を揺すって起きてもらう。
安眠を妨害されたからなのだろうか恨めしそうな目と目が合うが、言わせて欲しい、その顔をしたいのは私の方だ。
私も思わずムッとして、国見くんを睨み返した。
「保護者の人の印鑑が必要な承諾書、今日までなんだけど」
「ああ……」
国見くんは鞄の中からファイルを取り出した。
提出物にルーズな方の割には、ファイルは綺麗に整理しているらしい。
案外早くに「はい」と私にプリントが手渡された。
これで全員分だ。
プリントを受け取ろうと手を伸ばした時、ひょいっと腕を引っ込められてしまった。
私の手が空を切る。
国見くんはプリントを持った手を引っ込めたまま、こちらを見上げた。
その綺麗な双眸に私が映っている。
心臓がいやに煩くなった。
口はちっとも可愛くないのに、体はすごく正直だった。
ふっと笑って国見くんは徐に口を開いた。
「……毎回毎回、よくやるよね」
「は？」
「プリント回収」
内容にというか、その言いぶりに、カッとなった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 128人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
つばき - 川西のお話、鳥肌が立ちました。陰のある恋をしてほしいっていうの、同意します…！ (2021年2月14日 10時) (
レス) id: f1e42d3762 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - リムさん» ありがとうございます！ 頑張ります (2019年12月30日 22時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
リム - 赤葦の物語とっても切なくて涙が止まりません・・・泣 これからも頑張ってください! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 7cc2098249 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 天祢さん» そう言っていただけてうれしいです！個人的にも川西くんのお話が好きなので、刺さってくださる方がいて良かったなあと思います。更新を楽しみにして頂けるとうれしいです。コメントありがとうございました！ (2019年12月14日 15時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
天祢 - 読ませていただきました!勿論全部のお話が素晴らしかったのですが、元々最推しなのもあって川西くんのお話が特に良かったです。深いなぁ…と思いました。更新頑張って下さい!楽しみにしています(^-^) (2019年12月13日 21時) (レス) id: dfbff6b887 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桔梗 | 作成日時：2019年11月16日 13時
