・ ページ9
.
「Aのさ〜、さっきのやつ」
「あー、ね。いくら委員長大変だからってさー」
「だよねー、あれはないよね」
「国見くんかわいそう」
私がいるのに気づいた一人が、不味そうな顔をする。
残りの二人は私に気づいていない。
そうして、ようやく気づいた友人たちと鏡越しに目が合って、私は笑うことも泣くことも出来ずにただそこに立っていることしか出来なかった。
確かに、私の言い方は良くなかった。
あんな言い方はしなくてよかった。
でも、貴方たちだってトイレで悪口言う必要ないんじゃない?
「……聞かれたくないなら、こんな所で言わないで」
「……ごめん、行こ」
「う、うん……」
気まずそうにトイレから出ていった友人たちを見送ってから、今度は鏡越しの私と目が合った。
私が悪い。
私が悪いから、泣いちゃダメでしょう。
友人たちにも悪いことをした。
確かに彼女たちの言っていることは正しい。
正しいのだ。
なのに、どうしても私が惨めで悲しくて悔しくて。
どうして上手くいかないんだろう。
中学の時もそうだった。
班長やリーダーや学級代表、やりたくないのに任される。
ちゃんとやろう、ちゃんとやろうと思う度に、空回る。
陰口言われて嫌われて。
私はまた一人になるのだろうか。
教室に戻れば、既に友人たちの姿は無かった。
もう既に帰ったのだろうと思う。
私は自分の席に座って、英語の予習を始める。
家じゃ勉強出来ないから、よく学校に残っていた。
夏が過ぎて、秋が来て、せっかちな夕暮れが教室の窓を鏡に変える。
窓を叩く水滴が流れて行くのを見て、初めて雨が降っていることに気がついた。
鏡に映った自分の顔が、汚く歪んだ。
泣きたくない、泣きたくない、泣きたくない。
私は『しっかり』やりたいだけなのに、どうして私は器用に『しっかり』やれないんだろう。
泣きたくないと思うのに、思いとは裏腹な、嘲笑うかのように溢れる涙は止まらない。
零した涙がノートに染みを作る。
滲んだ黒鉛はもう消せなくて、それなのにスペルミスを見つけてしまった。
もう最悪。
友達に悪口言われてたのも最悪。
国見くんがいっつも提出物出しに来てくれないのも最悪。
委員長なんかにされたのも最悪。
先生にも親戚にも『しっかり』してるね、って言われるのも最悪。
でもいちばん最悪なのは、良いように扱われることを是とする私だ。
.
128人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
つばき - 川西のお話、鳥肌が立ちました。陰のある恋をしてほしいっていうの、同意します…! (2021年2月14日 10時) (レス) id: f1e42d3762 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - リムさん» ありがとうございます! 頑張ります (2019年12月30日 22時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
リム - 赤葦の物語とっても切なくて涙が止まりません・・・泣 これからも頑張ってください! (2019年12月22日 2時) (レス) id: 7cc2098249 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - 天祢さん» そう言っていただけてうれしいです!個人的にも川西くんのお話が好きなので、刺さってくださる方がいて良かったなあと思います。更新を楽しみにして頂けるとうれしいです。コメントありがとうございました! (2019年12月14日 15時) (レス) id: b9479cbc1c (このIDを非表示/違反報告)
天祢 - 読ませていただきました!勿論全部のお話が素晴らしかったのですが、元々最推しなのもあって川西くんのお話が特に良かったです。深いなぁ…と思いました。更新頑張って下さい!楽しみにしています(^-^) (2019年12月13日 21時) (レス) id: dfbff6b887 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:桔梗 | 作成日時:2019年11月16日 13時