潮騒～Sound of Waves～ 2 (ページ10)

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49 他人の空似ページ10

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昨日。

エミさんに制服代わりの白いシャツに黒いパンツ、エプロンを渡されて、ロッカーのある部屋に案内されて。

ドアをノックして、中から「どうぞ」という声がしてエミさんがドアを開けたら、

ちょうど着替えている最中のバイトの男の子が上半身裸でこっちを振り向いた。

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わ！！ハダカ！！

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「ちょっとぉ、どうぞって言うから開けたのに全然どうぞじゃないでしょー。

新しいバイトの子が決まったんだから、これからはもうちょっと配慮しなきゃ」

「なんで。むしろ今ウェルカムだから。笑」

「もう、潤くんたら。笑…ちゃんと気を遣ってあげてね」

「わかってるって」

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エミさんがちょっと無理したように笑ったことにも、潤くんと呼ばれたこの人がエミさんに気を遣うようにわざと戯けてそんな風に言ったことにも。

この時の私は、全然気付いていなかった。

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というのも。

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目の前に突然現れた人が、似てたから。

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一年前に私が失恋した親友の彼に、とてもよく似てたから。

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「俺、潤でいいよ。キミ名前なんていうの？」

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潤くん、っていうんだ…

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他人の空似にしてはすごく似てる。

アイツにはお姉さんしかいなかったから、まさか兄弟ってわけじゃないだろう。

年のせいかアイツの方が見た目ちょっと尖ってる感じがあったけど、

アイツがもうちょっと大人になって丸くなって、都会に揉まれて垢抜けたらこんな感じになるのかなって、そう思った。

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会わなくなって、時間の経過とともにもう癒えていたと思っていた古傷が、シクシクと痛み出す。

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「…Aちゃん？」

エミさんに名前を呼ばれて。

私はまるで潤くんに見惚れるように、その彫刻のような美しい顔をじっと見つめてしまっていたことに気付いた。

慌てて半開きだった口を閉じて返事をする。

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「ふふっ。Aちゃんも潤くんに見惚れちゃってる」

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「も」って？

一瞬、疑問に思ったけど。

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エミさんは私が潤くんの一つ年下で、同じ大学の学生だということを潤くんに説明して。

私は潤くんによろしく、と握手を求められて、その手におずおずと自分の手を重ねた。

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ギュッと手を握られて、アイツと同じような顔で微笑まれたら。

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記憶の片隅に追いやられてた恋心を思い出して、細かいことは全部どっかに飛んでった。