潮騒～Sound of Waves～ 2 (ページ36)

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75 もう一人の俺＊Satoshi＊ページ36

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「智、早く。次は抹茶ね！」

Aが俺を見上げて早く金を入れろと急かす。

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「ああ、…うん、」

俺は慌てて自販機に硬貨を入れ、ボタンを押した。

でもテラスから目が離せない。

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テラスにいたのはニノだけじゃなかった。

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ニノが座ってたベンチの隣には、ケイコが一緒にいて。

ニノは立ち上がって、ケイコの真正面に向き合って立つ。

元々暗くて二人の表情なんてわかんないけど、ケイコは俯いてて。

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もしかしたら泣いてんのかな。

やべ、タイミング悪い時に来ちゃったな。

そう思ったら。

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「智？どうかしたの？」

「いや、…別に何でも、」

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ケイコは目の前のニノの首に手を回し、自分へと引き寄せてキスをした。

その手がニノの首元からスルスルと滑り落ちていき、ニノのTシャツの胸元に添えられる。

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「智…？」

「……」

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ニノはケイコの二の腕を両腕で掴んだ。

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友達のキス現場をリアルに見るのなんて初めてで。

しかもそれがニノだし、ここにいるのはニノのことを好きなAだし。

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どう取り繕おうかと思う暇もなく、両手にアイスを持ったAは立ち上がって、俺の視線を辿ってそれを目にしてしまう。

驚いたAは息を飲み、アイスをギュッと握りしめた。

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「いや、あれは…ほら、キスしてる、…わけじゃねぇからさ、」

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しどろもどろの俺の言葉なんてAは聞いちゃいない。

信じられないものを見るように、ただただ目を見開いて何かに耐えるように唇を結んでいた。

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キスしてるわけじゃないっていうのは嘘じゃない。

今のここだけを見ると、まるでニノが座ってるケイコに覆い被さるみたいにキスしてるように見える。

だけど、さっきケイコが引き寄せた時の一部始終を見てた俺には。

ニノが今、ケイコの腕を掴んで自分から引き離して、諭すように言い聞かせるかのように何かを話してるのがわかった。

いつものあのチューしそうな顔の距離ってのがまた、キスしてるように見えるからタチが悪い。

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「さっき、さ」

今にも泣きそうな目をしてるAに本当のことを説明しようとして、俺はやめた。

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このまま誤解させときゃいいじゃんか。

もう一人の俺がそう囁く。

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「A」

ポロリと涙を零したAの視界を遮るように、俺はAを自分の胸の中に抱きしめた。