◆第二話「 柱 影 千 夜 」 ページ5
「…、あさ…、…!!」
Aは自分の声の掠れ具合に酷く驚いた。
「目が覚めたか。荷物をまとめろ。時期にここは土砂に呑まれる。早いうちに出るぞ。」
脳髄を鈍器で叩きつけられるような衝撃。
相変わらずの雨音。
水が流れる不快な音。
親が死んだという、…認めたくない現実。
赤く腫れた目元が痛々しく
その目は呆然と両親の血溜まりを見つめる。
夢であったらいいのに、
なんて思っていた。
「あれ……」
おかあさんの手がない。
昨日はココにあったのに。
血溜まりの中に転がっていた母親の片手。
目覚めるとそれは綺麗に無くなっていた。
「(もしかして…この人…)あ、あの。」
「無駄口はあとだ。」
「はい…ッ」
Aは生まれ育った故郷を発つための準備を始め、何か必要なものはないかと思考を巡らせたが自分の荷物で必要なものは特に思い浮かばず。
ただ唯一、足が向かったのは亡くなった父親の着物の残骸の元。
父親の形見として紺色の着物の端切れ。
母親の形見として、母が身につけていた髪飾りを一つ。
「__お父さん。お母さん。…絶対に強くなって、鬼を一つ残らず倒す。…約束。」
Aは両手を合わせ決意を述べた。
その眼差しはすこしだけ強く前を見据えていた。
泣くのは、今日で最後。
もう泣かない、強くなるんだ。
溢れ出る涙を乱雑に拭い踵を返し待ってくれている人の元へ駆け出す。
一粒の涙がキラリと光り輝き血溜まりに音を立てて落ちる。
「お待たせしました。」
「それだけか。」
その人は家の裏に母を、母の手を、埋葬してくれていた。
扉を開けて出るとその人は土だらけの手で小さな墓に両手を合わせていた。
「はい。」
「……そうか。」
す、と静かに立ち上がるとその人はスタスタと街外れの山の方へと向かって歩き出した。
「(お礼…、言わなくちゃ。)あ、あのっ、母を、母のお墓を…ありがとうございました。助けてくれて、ありがとう…ございました。」
「…謝るのは俺の方だ。すまなかった。」
「えっ、…?」
その謝罪は一体何に対する謝罪だったのか。
幼い彼女は理解できなかった。
_________
_______
____
雨。雨、雨。
降り続く雨は止まない。
A達が街を少し離れた頃、土砂が街を飲み込む様子をAはただ茫然と見つめていた。
何もかも。
…何もかも、奪った。
「...雨なんて 大嫌いだ。」
.
811人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はな - とても素晴らしい作品でドキドキハラハラしながら読ませてもらっています!続編を読みたいのですがパスワード教えてもらえたら嬉しいです!! (2022年12月17日 1時) (レス) id: 91f9c89261 (このIDを非表示/違反報告)
らむね(プロフ) - 続き読みたいです!!パスワード教えてくれませんか? (2022年4月30日 15時) (レス) id: 5ec7e35342 (このIDを非表示/違反報告)
皐 - とても素晴らしい作品でした!続きも読みたいので、パスワード教えてください (2022年4月27日 18時) (レス) id: 5f014d6a1f (このIDを非表示/違反報告)
のん。(プロフ) - 胡蝶3姉妹推しです!さん» 胡蝶3姉妹推しです!さん はじめまして!恐れ多い御言葉大変恐縮です...!これからも書き殴っていきますので何卒お付き合い頂けますと幸いです。コメントありがとうございました! (2020年7月31日 9時) (レス) id: 026c0ddca4 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶3姉妹推しです!(プロフ) - わぁぁぁ私の作品が塵以下だったとしたら貴方の作品は神より凄い! (2020年7月31日 6時) (レス) id: 7688185c2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:のん。 | 作成日時:2019年9月1日 23時