21.図書館 ページ21
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すっかり人通りの少なくなった廊下を、傾きかけの日差しが暖かな色に変える。
西階段を上って、三階に辿り着いたらあとは真っ直ぐ。目線の突き当たりに見えた、図書館の文字に、私は少し小走りで駆け寄った。
ガラリと、思い切り扉を開けると、一面サンセットで彩られた、大きな机が3つ程並べられていて。息を吸うと、その場所特有の、湿ったような匂いが、体にじんわりと染み込んでいく。
平野「こんにちは」
別に、声を辿った訳ではない。無意識のうちに、カウンターの方に目を向けていた。
分かっていたから。
彼が、そこにいることは。当たり前だったから。
「・・・こんにちは」
こんにちは、って。
高校生なのに、まるで、大人が小学生にするみたいな挨拶。
口先だけで呟くと、先輩は満足気に肯いて。カウンターの下に潜り込んでしまった。
平野先輩は、変わっている。
私が所属する、文芸部の部員で。
ただ1人の先輩。ちなみに、後輩はいない。同じ年の子も、私以外、誰1人としてこの部活には入らなかったらしい。
要するに、2人だけなのだ。
週2回、放課後。私達には、図書館を占領できる権利がある。
平野先輩は、ひとつ上の学年だけど、あまり教室には行ってない。図書館に居たり、中庭に居たり、はたまた校内のどこかをぶらついてたり。
だから、登校拒否とか、そういうのではないらしいけど。じゃあどういうものなんだ、って言われると、やっぱり、拒否してることには変わりはない。
自由奔放な彼のことに関して、私が分かるのは以上のことだけ。秘密主義なところも、平野先輩を上手く掴めない理由のひとつだ。
でも、嫌いではない。
進学のために、名前置きとして入った部活だけど、想像以上に、浸かっていることは否めない。
放課後の図書館。暖色の部屋。平野先輩というオプションも含めて、私はこの空間がなんとなく気に入っている。
今の私にとって。
唯一、廉を意識せずに居られる。
そんな場所でも、あるから。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時