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事務所の時計が17時になろうとしていた



いつの間にかちょっとだけ進んでいるその時計が私の勤務がもうすぐ終わるよと言っている


「あー、、、もう17時になっちゃう……。」


思わずそう声に出ていた



『もうAさんの勤務も終わっちゃうね。』


早番勤務の二階堂くんがそう言った
いつもなら勤務が終わった途端にさっさと帰るのに
今日は16時に終わってからずっと受付で私の横に座っていた


「今日は帰らないの?飲みに行かないの?」

そう聞くと

『他のメンバー仕事だから、最後見送れんの伊藤さんと俺だけだからさ。』
ってさらっとまた泣きそうなことを言ってきた


夕方は再配達の依頼などが増えるのでほとんどみんな営業所にはいない

それをわかっててそうしてくれたようだ

『ま、ミツにも頼まれたしね!』

照れ隠しと思われる言葉を言ってニカッと笑った



私の腕時計も17時を過ぎていた
もう就業時間も終わり


なのに立ち上がれずにいた


いつもなら過ぎていることを気付いたら
『もう、時間だから上がって?』
と言ってくれる伊藤さんも何も言わない



けれどもいつまでもここに座っているわけにはいかない

二階堂くんだってわざわざ残ってくれているわけだし



「………さ、帰ろっかな!」

意を決して立ち上がった



『Aちゃん……。』

伊藤さんの目はもう赤くなっていた


「ふふ。
 短い間でしたけどほんっとうにお世話になりました!
 ここでのお仕事…凄く楽しかったです!」


溢れそうな涙を必死で抑えた


『娘みたいな感覚になってたからほんとに寂しいわ……。
 向こうでも元気でがんばるのよ!』


優しくハグされ背中をポンポンとされると
本当のお母さんのように感じた


「二階堂くんも、ありがとうね。」


『他のみんなからもしっかりAさん見送れって言われてるから。
 こちらこそありがとうございました。』


いつもヤンチャなくせにこう言う時にはちゃんと礼儀正しいんだ

改めて言われるとまた泣きそう
奥歯をグッと噛み締める


「じゃ、お疲れ様でした!」


そう言って私は受付を後にした


忙しい時間帯だから他には誰もいなくて……
着替えた後は誰にも会わなかった



「ただいま。」



『おかえり。』



流石に次の日引っ越しだったのでかずくんは休みを取って家にいた



『仕事、お疲れ様だったね。』



「ん、ありがと。」



この家での最後の晩餐は
テイクアウトの餃子と唐揚げとビールだった

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作者名:桃マスカット | 作成日時:2022年2月25日 7時

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