93 ページ3
「エプロン、しないの？」
冷蔵庫に手をかけたまま、体の動きが止まった。
どうして彼はいつも、こんなに簡単に、こんなに早く気づいてしまうのだろう。
これが嫌。
嘘を吐いて、それが露呈しそうになるこの瞬間。
冷房で涼しいはずの室内で、首筋を伝う汗。
テレビの音で騒がしいはずの室内で、いやに聞こえる心臓の音。
私はこの瞬間が嫌いなんだ。
音もなく深い息を吐いて、唇を色づける。
「それは……」
決めたから。
嘘を吐こうと。
「あー、言わないでいい。
ごめん」
色づいたのは彼の吐息だった。
「え？」
何を謝っているのだろう。
何で謝っているのだろう。
「知ってる。翔くんちでしょ。
お前が嘘吐くから腹立ったの」
嗚呼。
「なんだー知ってたんだ」
痛いのは彼がそれを知ってたってことじゃない。
彼が子供みたいに拗ねてるからじゃない。
カズは今、言わなくていいと言った。
そして知ってると言った。
それはつまり、私が本当のことを正直に話すのだと、そう悟ったからだ。
でも、私は今、嘘を吐こうとした。
嘘に嘘を塗り重ねようとした。
なんだよ、わかんないんじゃん。
人のこと全部見透かしてるみたいな顔して、わかんないんじゃん。
私の嘘に、気づかないんじゃん。
あー、最悪。
私最悪だ。
悪いのは彼じゃない。
嘘吐いといて気づいてほしいなんて、都合良すぎ。
決めたんだから、うん。
「なんで知ってるの？」
思考を振り切るように、冷蔵庫を開ける。
「翔くんがお礼言ってきたからね」
「うわ、律儀」
カズにお礼なんて言う必要ないのに。
「なんで俺に隠したの？」
そりゃ知られたくないから。
「勘違いされたら困るから」
「へー」
あーもう、この鈍感。
てかちょっとは妬け！
あーはいはい。
貴方は琴美さん一筋ですもんね。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2261人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かおり(プロフ) - お願いですから、せめて1話だけでも書いてくれませんか… (2019年7月5日 13時) (
レス) id: 9aa4c2db67 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 更新…待ってます！ (2019年5月21日 1時) (レス) id: b29790e5ba (このIDを非表示/違反報告)
さいたん(プロフ) - 更新楽しみに待っています。 (2019年4月21日 16時) (レス) id: aceac62259 (このIDを非表示/違反報告)
涼杜兄妹(プロフ) - 切ない…今後どうなるのかとても気になります。更新楽しみに待っています、頑張ってください！主人公ちゃんがんばれ！！ (2018年3月12日 13時) (レス) id: 400e48a6ce (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - 。・゜゜(ノД`)(。>д<)( ノД`)…(´д｀|||) (2018年2月14日 20時) (レス) id: 84fdbed2f6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふじしの | 作成日時：2017年9月30日 15時
