さよなら、また。 (ページ7)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:20,146 hit

・ページ7

今度は夢だと分かった。
その恐ろしいものは確かにそこにいた。にんまりと口角を上げて私を見据える。恐ろしいと思った。足が動かない。ただ震えるだけしかできない私を誰かが包んでそのまま視界を遮った。

「守るって言っただろ。」

確かに愛しいその人の声だった。
次に視界が開けたときは綺麗な海が広がっていた。普通ならあり得ない。でも夢なら納得できた。彼は私を守ってくれた。夢の中でも彼は私のヒーローだった。

「将人、ありがとう。」

「無事ならそれでいい。」

すました顔をして私の手をとる将人になんだか可笑しくなってしまった。

.

「眠れたのか？」

朝食を摂っている時、突拍子もなく彼は言った。スーツを着て髪も整えた彼の声色は仕事用かとも思ったけど、まだそうでもなかったようで、心配そうな様子で私の顔を覗きこむ。

「おかげさまでね。将人のおかげよ。守ってくれたの。」

満足げに私が微笑むと、なんだそれ、と言いつつ彼も得意げな顔をした。ぽかぽかと心があたたかくなるのを感じた。

「守ってやるっていっただろ。」

「そうね。」

どこにいたって彼は彼だった。あまり表情は変わらなくって、冷たい人だと思われがちだけど根は優しい人だ。
夢の中の将人かっこよかったよ。と言うと拗ねるだろうか。意地悪をしたい気持ちになったけどそこは一回我慢して、彼の頬に一瞬口付けた。

「いってらっしゃい。」

「……いってくる。」

驚いたような素振りを見せたものの、すぐに取り繕って私の頬にキスを返した。
もう、あんな恐ろしい夢は見ないような気がした。だって、どんなに怖いことがあったって将人が私を守ってくれるから。
私が彼の側に居ることによって彼が救われることはあるのだろうか。こんな風にぽかぽかした気持ちになって安心できる居場所になれているのだろうか。もしそうなら、なれているのならば、これからもそうでありたいし、私も彼のヒーローになりたい。

「私だって、守られてるだけの女じゃないのよ。」

そう、小さく溢して家事にとりかかった。

もしも、優しい夢をくれる彼を脅かすものがあるなら、彼を守るために私だって、修羅になれる。