いまでもあなたが好きです ページ2
家に帰ってもなにもする気が起きなかった。ただただ無気力で、悲しくて、気を抜くと涙が出てくる。逃げ場なんてなかった。家に帰っても彼の影がいつまでも私にまとわりついてきた。玄関も、リビングも、台所も、寝室も、廊下だって、思い出がいっぱい詰まっていて、どこを見ても苦しい。スマホを見ることもつらい。着信履歴はすみだ署からが一番上だった。その次は彼の名前だ。電話をかけた。何度だってかけた。でも何十回かけたって繋がることはなかった。なんて無意味なことをしているんだろう。苛立って床にスマホを放り投げる。割れることもなく綺麗なままの画面には私と将人が幸せそうに微笑むロック画面がぼんやりと浮かんでいた。
腹立たしさと虚しさで心がぐらぐら揺れる。画面の向こうの私があまりにも幸せそうで涙がでる。私はこんなにもつらいのに、悲しいのになんでお前はそんなに幸せそうなのか。八つ当たりのような感情で胸がいたい。手元にあった、かわいらしいコースターを床に叩きつけようとした。……出来なかった。将人からのプレゼントだった。私が好きそうだと思って買ってきてくれたものだった。私の分は買ってきたのに自分の分は買ってきてなくて後日私がプレゼントした。照れ臭そうにはにかんだ彼はその日からコースターを使ってくれた。
「くそっ、くそっ、くそ!!!!!」
何もかもが憎くてたまらないのに、そばにあるものがすべて愛しくてやりきれない。当たり散らした手も足も痛い。電気すらつけていない部屋は夕日も沈んでしまって光がなくなり、真っ暗になっていた。
涙を拭いて立ち上がる。電気をつけるとパチ、と音を立てて光が灯る。荒れた部屋を見てもなにも感じなかった。部屋を踏み荒らす。写真立てが目にはいった。憂いなんてないように微笑む私と、そんな私の腰に手を回して抱き寄せながら微笑んでいる彼が写っていた。
なぜか急にあたたかい気持ちになって、また涙がこぼれた。笑顔があまりにも眩しかった。
「部屋、片付けよう。」
撒き散らした思い出をかき集めるように、部屋の掃除を始めた。苦しくて悲しくて何もかも放り出してしまいたくなったけれど、それでも全部全部が大切で、忘れたいことなんて何一つなかった。
やっぱり私は、いまでもずっと、あなたが好きで仕方ない。
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かたよせ。(プロフ) - 見にくい (2019年9月17日 6時) (レス) id: fc6576e6c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らる子 | 作成日時:2019年9月15日 19時