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2人はまるで、足りない親愛というものをAで埋め合うようにして、そんな風に3人の世界は作り上げられていた。
派手好きで支配的で、気分屋の由紀と
誰にでも好かれる、優しいAと
大人しく内向的で、無口な真冬と。
どうしてこの3人が噛み合うのかと周囲が首を傾げる中、まるで、磁石の反対側が引かれ合うように。その磁石で道を示すコンパスのように。
お互いの摂理の中で、3人の世界は完結していたように思う。
そんな時、Aの両親が死んだ。
その日は酷い雨で、視界が悪くなっていた道路で起きた大規模な玉突き事故に巻き込まれた。
元々Aの両親は駆け落ちで、親戚の宛てもなく、一人残されたAに手を差し伸べたのが、真冬だった。
それから真冬とAが一緒に住むようになって、Aの心を元気づけるように、何度も由紀は家に訪れていた。
やがて高校生になって、真冬とAと高校が分かれて、由紀と俺と玄純で音楽を始めて。
それに小さなひずみができるまで……。
由紀はバンドをするためにバイトを入れて、それ以外はスタジオにこもりまくった。
Aは昔から習っていたピアノで、曲を作るようになった。
そして、真冬と由紀はほんの小さなケンカをした。
Aが止められないほど、売り言葉に買い言葉のような、でもたわいもない、どこにでもあるごく普通のケンカをした。
その日の夜。雨が降った。
2日後。由紀は飲めもしない酒を大量にのんでいた。
それを真冬とAが見つけた。
「俺は全部知ってた。全部、知ってたのに」
「………………」
長い長い、でもほんの数ヶ月前の記憶。
柊は思い返しながら、拭いきれない後悔に胸を締め付ける。
真冬はストンと柊の隣に座る。
そして静かに切り出した。
「……日曜、ライブ……やるんだ」
「……行っていいのかよ」
「うん」
「シズも?」
「シズちゃんも呼んで」
まさかそう来ると思っていなかった柊は、目を丸くして、しかしすぐに悩むように俯く。
「……八つ当たりした」
「ん?」
「さっき、俺の気持ちわかんないとか言ったけど……ホントは、俺が一番わかんないんだ。向き合いたくなくて、逃げてた」
わからない。自分の気持ちなんて、自分が一番わからない。
Aは言った、「分からないから探す」と。
Aは、ちゃんと向き合っている。
でも自分は、分からないまま避けてたのだ。
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に - 最近ギヴンにハマった20代ですが、こちらの小説ほんっっっとうに最高です!!!!夢主の行動・気持ち・考えなど文からとても伝わってきて読みやすいです。お忙しいと思いますが、完結に向けて頑張ってください。楽しみにしております!! (2020年4月30日 13時) (レス) id: e8737ae1a9 (このIDを非表示/違反報告)
美咲 - アニメ終わって落ち込んでたら、映画っ!嬉しすぎて……2020年まで頑張っていけそうです!言ノ葉さん最終話までお疲れ様でした!番外?リクエストも更新、楽しみにしてます!に (2019年9月20日 15時) (レス) id: 7ef2d991dc (このIDを非表示/違反報告)
蓮華 - はじめまして!梶さんと春樹とのお話を書いてほしいです! (2019年9月20日 10時) (レス) id: eb587ffa62 (このIDを非表示/違反報告)
神夜(プロフ) - マシュマロが通信制限で使用出来ないのでボードの方に感想、リクエスト書かせて頂きました。御手数ですが見て頂けると嬉しいですよろしくお願いします。 (2019年9月18日 5時) (レス) id: 1c640baa7c (このIDを非表示/違反報告)
言ノ葉(プロフ) - 美咲さん» コメントありがとうございます!雨月さんめっちゃ美人ですよね……。10話の耳かけスタイルがとても色気爆誕でやばかったです…… (2019年9月16日 21時) (レス) id: 50b948882d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:言ノ葉 | 作成日時:2019年8月30日 15時