はむ・ハム・チェリー 3

106 K side 「ただいま」の場所 ページ37

ピーピーｯ// ピーピーｯ//


「んっ？ 焼けた 焼けたっ。」

音に呼ばれて
キッチンへと腰を上げた 太輔。

デカい皿と ミニチュアの皿が並んだ
ガラスのテーブルを前に、
俺は するコトもなくて ちんまり座ってる。


.




今朝、空港でツアーの打ち合わせを軽く済ませてから 田所さんと一緒に タクシー乗った。

俺のナカで《わた菓子》程度にモヤってた
後ろ向きな心配事が
アイツのマンションが近づくにつれて
急激に 空に浮かぶ《雲》レベルに膨らんで、
タクシー降りた時には《雨雲》並に
じっとり女々しい気持ちで 湿りまくってた。



アッチにいる時から
おかしいとは 思ってたのよ。


アイツの顔 見なきゃあ
1日で 胸がソワソワ 落ち着かなくなる。

で、2、3日すると
何となく カラダにチカラが入らねーってか
全身がダルく 熱っぽくなったりする。

けど、そんなんで仕事に影響出すほど
俺も青くねぇ。

まぁ、予想通り 熱は出したし、体調は乱れて
ベストコンディションは 保てなかった。



けど･･･


いくら 熱を出しても
一向に 鼻がムズムズする気配が なかった。

あの、アイツが足りなくて
アイツを求めて ハムになりたがる気配が

･･･ なかったんだわ。



アイツに会っても ハムになんねー予感。

『アイツが 会うの楽しみに待ってんのは
ちっちゃな もけもけ なんじゃねーの？』

んなこたねーって 頭では分かってるクセに。

何度 スマホが 太輔からのコールを知らせても
胸満杯に広がった《雨雲》が、俺を エントランスのソファから 離してくれなかった。


アイツに『おかえり』と言われて、
そのままの俺を ヨカッタと抱きつかれて
ようやく 湿り腐った胸が 乾いてったんだわ。





.



「お待たせ。冷めてたけどさ、
意外とカリッと あったまってるわ。
さ、食べるよ？ お腹空いてるでしょ？」

ピザの乗った 大きな皿を 真ん中に、
追加の取り皿を 俺の前に 置いたアイツは


「･･･ おかえり、ヒロ。」


正面から 同じコトバを 俺に投げてきた。


「･･･ん。･･･ ただいま。」


今度は シッカリ。
俺のコトバは
アイツの投げたコトバの上に 着地した。

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