はむ・ハム・チェリー 3

98 Y side 充たされて 1 ページ29

「ひぃー、あっちー//」


肩のタオルを 首に巻き付けるように
顔から頭から ガシガシしながら
楽屋に入ってきた ウチの最年長。



8月半ば。夜 8時。

あと10日チョイで 始まる
ツアーのリハ上がり。

昼間の熱が まだまだ残る外とは違って
キンキンに冷えてる 建物の中。

それでも リハで滴る汗は ハンパないし
踊り続けた 脚や腰は
ズンと鉛みたいに 重たくなってる。


春からの舞台と ツアーの準備が重なって
もともと小さかった幼い顔が
さらに ひと回り 小ぶりになった みつ。

でも、顔もカラダも そこそこの小麦色で
いたって健康的。

そんな暇じゃないだろうに
やれ、クルージングだ 潜りだ BBQだって
時間を見つけては アウトドアしてるらしい。

しょっちゅう 熱出したり 頭痛かったり
調子崩してた 数ヶ月前とは 打って変わって
絶好調みたいだ。
仕事も プラベも パワー全開の
いわゆる「リア充」ってヤツだな。

今も、リハ終わっても
スタッフさんに 確認したい事があるからって
1人スタジオに残ってた。





「･･･ 早く シャワー浴びたら？」



汗を吸ったTシャツを ソファに放り投げて
まだ ガシガシやってるヒトの側に
スッと 近付く影･･･

太輔 だ。

珍しく イチバンに シャワーを浴びて
すっかり帰り支度が済んでるってのに。

テーブルに 鞄を乗せて
ずーっと スマホ弄ってたのは･･･



大判のタオルを アタマから剥ぎ取って
肩に羽織らせると
俺達の視線を遮るように
低い背中を 胸でグイグイ押してく 後ろ姿。



「はぁー･･･ リア充 ね。」

イヤでも 口の端が上がるっての。




仕事で 常に人前で 着替えてるってのに。

俺達に さえ？
上半身だってのに？

太輔の《見せたくありません》感が
あまりにも露骨すぎて 笑ってしまう。




シェアハウスから 一足先に 帰った2人に
何があったのか。

みつの 体調を見てたら、
磁石みたいに どの現場でも引っ付き回ってる
太輔を見てたら 想像もつくってもんだ。

2人の間で 充実しまくってる《リアル》。



どうせ これから一緒のトコに 帰るんだろ。
明日から みつは 暫く海外だし。
ライブの前日まで 帰ってこない。

みっちり 2人の時間を 過ごせばイイ さ。



1度きり 目にした
ちっちゃな もけもけ。

しばらく離れ離れになる2人。

あの 愛らしい姿を
もいちど見るコトに なるんだろうか。


見たい ような･･･

でも あの姿は
みつの 寂しい《負》の気持ちの変化(へんげ)

なんだと 思う 俺。

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